第16話 腐女子と腐女子 ACT  2

意外、なんか尾を引いている。

みかんって自分の事を突かれるとこれほどまで殻に閉じこもっちゃう性格なの?


今日だって学校でも、何となく私を避けているような感じ、ありあり感満載に響いてきちゃってたんだけど!

でも、ほら、学校ではさ、私たち、ホント他人状態だから。それでいいと言えばそうなんだけど、でもなんかいつもと違う感じがするんだよねぇ。


なんか冷たい様な……。


家でだって、あんまり話したくない様な感じありあり。

ま、いいか。私の作るご飯は綺麗に食べてくれてるし。


「りんご」

希美が私に声をかけて来た。

「ねぇ、あんたたち喧嘩でもした?」


「な、何よいきなり!」

「だってさぁ、美柑さんなんか元気ないように見えるんだけど」

「何でみかん……。宮島先生が元気ないと、私と喧嘩したことになるのよ」

「あれ? 違ったの?」

「べ、別に。喧嘩している訳じゃないんだけど」

何よ、そんなに気にしてんのみかん。


「でもさぁ、今日美柑さん、もう帰っちゃったみたいだよ」

「えっ! 嘘。具合でも悪いの?」

「さぁどうなんでしょ。そこんとこ一番よく知っているのは、あなたじゃないのりんご」

朝はなんともなかった。ただ会話が少ないだけだったのに。

急いで、教務室に行ってみた。


教務室の前でいったん立ち止まると、戸をガラッと開けて出て来た鮫島先生が私を見て声をかけて来た。


「どうした森野。そんなに息を切らして」

「え、あ、あのぉ、宮島先生は?」

「なんだ宮島先生に用事だったのか。今日はもう昼で帰ったぞ」


「えっ! そうなんですか。どこか具合でも……。」

「悪かねぇぞ! なんだお前心配で来たのか?」

「いえ、そんなんじゃないんですけど、ちょっとぶ、部活の事で相談があっただけなんです」


「ふぅ―ん、それは残念だったな。宮島先生またボクシングジムに行くって言ってたな。ま、今日はどのみち昼までだったからな」

「……。ボクシング?」


「なんだ知らなかったのか? 宮島先生あれでも一応プロボクサーなんだ。プロテスト合格してまでそれを棒に振るなんて、ま、人にはいろいろあるんだろうけどな」

色々あるって、雑誌の事まで知ってるのか、この鮫島は。


「その話って宮島先生から訊いたんですか?」

「ああ、結構彼奴、俺とも気が合うていうか、なんか可愛い奴でな。相談事にものってやってんだ」

ちょっと得意げに言う鮫島。


みかんの事ならあんたよりも、私の方がよく知ってるよ。そう言い返してやりたかったけど。鮫島から出た言葉は私の知っている事とは違っていた。


「なんでも、前に付き合っていた彼女が原因でボクシングから身を引いたって訊いたんだけどな。それでも、最近体がなまって来たから、軽く馴らし程度で出来るジムを紹介してほしいっていうから、俺の知り合いのジムを紹介してやったんだ」


「彼女……」


「おっと、あんまりプライバシーに触れちゃいかんな。ま、今の話は聞かなかったことにしてくれ」

ちょっと罰が悪そうにしながら鮫島は言う。


「先生、そのジムどこか教えてもらえませんか?」

「知ってどうすんだよ、森野。押しかけるつもりじゃないだろうな」


「そんなことしませんよ。ただ気になるじゃないですか。宮島先生がボクシングやっていたなんて、……。そ、それにわ、私もボクシング興味があるんですよぉ! ど、どんなところかなぁって。さ、最近少し太りぎみだし、少し鍛えるのもいいかなぁって」


あああ―――――。心にもないこと言っているよ。

この嘘つき!


「ほほぉ。森野お前、格闘技にも興味があるんだ。だったら柔道部に入らないか? 女子部員も募集しているぞ」

「へぇっ! 柔道部?」

いやいや、私は柔道なんか、これっぽっちも興味はない。


それよりも格闘技に、自分から参戦しようなんて砂粒一つの思いもない。

ま、あるとするならば、何だろう……。いやいやそこは違うだろう。私は禁断の恋が好きなんだよ。


「森野、何顔赤くしてんだ」

はっ! 何を考えていた。そんなことじゃない。みかんがボクシングを再会したなんて一言も訊いていないかった。何で、隠す事なの?


それとも、私には関係ないから、話す対象じゃないって言うの?

「な、なんでもありませんよ先生。それよりも教えてもらえませんか?」

「しょうがねぇな。俺から訊いたなんて言うのと、他の奴らには内緒だぞ」

「はい、承知しています」

ここはきっぱりと答える。


鮫島はいったん教務室に戻り、メモ用紙を私に手渡した。

「ここだ。ジムの名前だけだ。後は自分で調べろ」

「ありがとうございます」

ニまぁーと笑い、立ち去ろうとした時「おい森野、柔道部の入部検討しておいてくれよな。女子部員すくねぇから、欲しんだよ」

まだ引っ張るか!


「か、考えておきますそれじゃ、ありがとうございます」

長居は無用。早々と立ち去った。

私って悪い子だね。


最も、いい子なんて、これっぽっちも思ってもいないんだけど!


もらったメモに書かれたジムの名をスマホで検索した。「トムジム(実在したら無関係です。フィクションですので)」一番上にヒットしたサイトを開いてみると確かにボクシングジムだというのが分かった。

「多分ここだろね」

学校終わったら行ってみるか。


いるかいないかは、ま、行ってみないことには分からない。

でも何でみかんは何も言わなかったんだろう。

知られたくなかったから?

ボクシングやっていたのは自分から言ったんじゃん。

また再開したからって何も隠さなくたって……。


そんな事を考えながら、廊下を歩きだした時、体に思いっきりドンと何かがぶつかった。

それがなんであるか、目にするまで数秒かかるほど、思いっきりぶつかっていた。


「いたたたたっ!」廊下に叩きつけられた私のお尻。

そこからじんわりと痛みが走る。


見上げると、目の前に倒れ込む一人の女の子。

倒れながらもその視線は、じっと私の方に向けられている。


一言。


「シマパン」


その子がつぶやくシマパン。


今日は私はシマパンなのだ。

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