第7話 イケメン教師は、反面教師 ACT  2

「おはようみかんちゃん。昨夜はよく眠れたぁ?」

後ろから母上様が抱き付いてきた。


ふくよかな母上様の胸が、背中に当たる感触がする。


「なんか意味ありげに聞くよね」

「あら、だってそうじゃない。うちにお・と・こがいるんですもの。興奮して眠れなかったなんてね」


「そんなのある訳ないじゃん。だってみかんだよ。男のうちに入らないじゃない……。た、たぶん」

「そうかなぁ。みかん君ってBLに出てきそうな感じのイケメン君だから、りんごちゃん気にしてるんじゃないのかなぁって、思ってたんだけど」


「だ、誰があんな……」


「でも、りんごちゃんおめめ、真っ赤だよ。寝不足は良くないと思うんだぁ。それに朝から躰ポッポしてるじゃない」

「んねぇ、これはさっきシャワー浴びたから。それにシャンプーが目に入って充血してんの」


「ふぅ―ん。で、みかん君は帰ってきてるの?」

「まだシャワー浴びてんじゃないの」


「ふぅ―ん。”まだ”ねぇ。そう言えば朝早くから、ランニングに出かけていたわよ。みかん君。ジャージ姿もカッコよかったなぁ」


「そ、そうなの……」

浴室で抱き着いた時、みかんから香る汗の匂いを思い出していた。


男の人の汗の匂い。


ああやって嗅いだのは……初めて。

みかんのあの甘い香とちょっとすっぱい感じの香りが……な、何考えてんの私。て、まだ右手に”あれ”の感触が残っているし。


うううううううううううっ! パッパッ!


ああ、”あれ”ってマンガでも直接の物は書かれていないから、ただの棒みたいなもんだと思ってたけど、い、意外とグロいものなんだ。


キャッ! 何また私思い出してんのよ!!


「もしも――し。りんごちゃん、どうしたの顔真っ赤にしちゃって」

「な、なんでもないよ。あはははは。こ、珈琲飲むでしょ」


「おっ!、俺にもくれるかなぁりんご、珈琲」


「ひえっ!」


振り向けばスエットのズボンだけで、上半身裸のみかんが立っていた。


「あらぁ、いい躰。ホレちゃいそうなくらい欲情欲が湧き出てくるわ。ああぅん。もう朝からこんな気分にさせるなんて、みかん君も罪な男よね」


「あ、すんません俺ランニングの後、シャワー浴びるといつもこんな格好なんで。気持ちいんすよねぇ―。なんかすぅ―と躰が冷えていく感じが」

「そうなのぉ。うちじゃ別に気にする事ないんだから。何だったら、もっと楽な格好でもいいのよぉ」


「そうすか。ありがたいす」

「ねぇねぇ、今度一緒にお風呂入りましょうよ」

「そうすね。今度は奈々枝さんと入りますか」

な、何だとう! つぎは母上様と入ると、平然というのか!


「あら、嬉しい。その時はいろいろと教えてあげるわ。お・ん・な の事」

「ンもう!!!! 朝からそんな話題に走らないの!」

「あらあら、りんごちゃんヤキモチ妬いちゃった?」

「ばっかじゃないの。何でみかん相手に、ヤキモチ私が妬かないといけないのよ」


「うふふ、ああ、若いっていいわねぇ」と、言いながら「ん――――」と突如に考えこむ母上様。


たいていこういう時は、何か新しいアイディアが浮かんだ時だ。


「はっ!」


あ、何かが舞い降りたみたい。


「ん――――いけるかも! 珈琲後で持ってきてくれる。りんごちゃん」

「はいはい。分かったわよ」

そう言いながら自分の書斎にとじ込む母上様。

こうなれば、今日一日は書斎に閉じこもったままだろう。


「はい珈琲」

「ありがとうりんご」


「朝ごはん。みかんは和食派? それとも洋食派なの?」

「あ、俺。朝はあんまり食わねぇんだ。て言っても俺はほとんど此奴だから」


持ってきたバックの中から取り出したのは、大入り袋のプロテイン。

プロテインかぁ。私飲んだことないんだよねぇ。


「ねぇそれって美味しいの?」

「りんご飲んだことねぇのか?」

「ないよ。でもそんなんで、お腹いっぱいになんかならないでしょ」


「飲んでみるか?」

「いいの?」

「ああ、待ってろ今作ってやるから」


水を入れたシェイカーに白い粉を軽量スプーンで数杯入れて、ふたをしてシャカシャカ。真っ白な液体が入ったボトルを私の前に差し出した。


「飲んでみ」

「う、うん」


キャップを開けて恐る恐る口にしてみると。

お、美味しい! これってヨーグルト味だよね。あっさりしていて飲みやすい。

ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいった。


ぷはぁ―――。


「どうだった?」私が飲んでいる姿をみかんは、にこやかに見つめていた。

「美味しい……ゲプッ!」

「あはは、一気に飲み込むからだよ。それに結構腹にたまるだろ」

そう言われてみれば、意外と満腹感がある様な無い様な。

でも、これで朝食が済んじゃうんだったら超、お手軽かもしれない。


「躰をつくるにはプロテインは必需品なんだよ。でも、これだけじゃいけないんだけどな。やっぱり減量の時以外は、ちゃんとした食事も必要なんだよ」

「ふぅ―んそうなんだ。やっぱり食事は大切だって言う事なんだ」


「そうだな。しっかりとした食事と、トレーニングはセットだからな」


流石、なんか物凄く説得力があるのは、今までこうしてみかんが積み上げて来たものなんだからだろう。仮にもプロなんだし、体つくりには物凄く気を使っているのが良く分かるよ。


「そっかぁ、じゃぁ献立、これから考えないとね。仮にもプロなんでしょ。ボクシング」


「ああ、そうだよ。それじゃこれからよろしく頼むわ。俺のフードトレーナーさん」

そう言って私の前髪を書き分け、おでこにチュッとキスされた。


あまりにも自然すぎて、何が起きたのか一瞬分らなかった。


でも、一気に心臓がドキドキと高鳴る。


「馬鹿ぁ! なに、いきなり何すんのよ!!」

「怒った? いいじゃん。妹のおでこにキスくらい。あははは」


い、妹――――――!

やっぱりみかんは、私の事妹としか見ていないのか。


此奴は女が苦手なんかじゃない。

もしかしたらただ疎いだけなんじゃないのか?


ドキドキしながらも、もし、これが女じゃなくて男だったら、みかんはどんな顔をするんだろう。



なぜかそんな事を思ってしまう私だ。

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