第4話 アブノーマルで何が悪い! ACT 4

えっ! どうしよ。ホントどうしよ。


「ホントにもう寝ちまったのか?」

「……お、起きてる」

「入ってもいいか?」

「う、うん」

カチャっとドアが開いた。


「何してたんだよ」

「何って何もしてないわよ」

そうだ。何もしてないんだよ。


「何もしないってベッドの上で、タオルにくるまってか?」

「何よぉ――――。何か変?」

「いや、別に。あ、そうだ。奈々枝さんがお寿司出前取ってくれたんだ。降りて来いよ。腹減ってんだろ」


寿司? 

珍しい。祝い事か? 


「お寿司?」

「ああ、寿司だ」

「分かった。じゃぁ行く」


「おう、それじゃ早く終わらせてこいや」

「ん? 終わらせてって――何?」


「最中だったんじゃねぇのか? 邪魔して悪かったな」

へっ! 最中って……。

「もう少しでイクとこだったら悪かったな。ちゃんとイッてからこいや。してたんだろ。オナニー」


「してないわよ!!!! そんな事!!!!!」


おもいっきり枕をみかんめがけて、投げつけてやった。

バフ!


「あははは、冗談だよ。冗談。でもそんなに怒るとこみると、マジだったのか?」

「んな訳ある訳ないでしょばぁかぁ!」


「わりぃ、ま、積もる話もあるからまずは来いやよ。なぁ……りんご」

「うっさい。早く出ていけ。このド変態」


「ああ、怒ちゃった。ごめんごめん。でも、気になってるんだろ。俺がどうしてここで暮らすことになったのかって言うの」

な、なんだいきなり今度は確信をついてきやがる。


「ま、それについては、奈々枝さんからも説明があるみたいだ。最も俺からも、お前にはちゃんと伝えておかないといけないこともあるからな」


「分かった……行くよ。でも私オナニーなんかしてないんだからね」

「いいねぇ、そうやって真に受けるなんて、興味深々のお年頃だって言う証拠だよ」


まだ乗せるのかその事。ギッとみかんを睨んでやった。

「ま、早く来いよ。待ってるから」そう言ってニカッと笑う顔は憎めなかった。


「そ、それと……さっきはありがとう」

「んっ?」何の事だと言う顔をしているみかんに。


「からまれたときに、た、助けてくれて……」

「ああ、なんでもねぇよ。あんなの。でも、まさかりんごだったとは思いもしなかったよ」


「本当に私だってわかんなかったの?」


みかんは真顔できっぱりと

「わかんなかった。知ってたら俺彼奴らに叫んでいたと思う『俺の妹に手出すんじゃねぇ』ってな」


い、妹?

「な、何で妹なの?」


「な、何でって……別にいじゃねぇか。い、妹でも」

なんか照れてる顔が可愛い。

「そ、それじゃ、待ってるからな早く来いよ」


ぱたんとドアが閉まった後。急劇に私の鼓動が高鳴った。


何この感じ?


―――――わ、私ドキドキしているの? みかん相手に。

ありえない! こんなのありえないよ……。たぶん。


一階の居間に降りていくと、母上様とみかんは目の前のお寿司に箸もつけずに私を待っていてくれた。


「ようやくキタァ。りんごちゃん。ちゃんとイケたのぉ?」

「はぁ―。み・か・ん!!」

「あ、俺何も言ってねぇから、誤解すんなよな」


「んっもう、りんごちゃんたら溜まっていたんでしょ。スッキリしたところでお寿司食べましょ」

はぁ―、何のこっちゃ。一気に疲れたよぉ。


でもお腹もすいている。目の前のお寿司にゴクリと喉が鳴った。

「今日は奮発して特上寿司よ。さぁ食べましょ」

ニッコリとほほ笑んだ、その屈託のない母上様の顔を見ると、もうどうでもいいやって言う感じになるのが不思議だ。

それが私の母上様の魅力でもあるんだけどね。


「ね!」

またニッコリと私を見つめる母上様。


「ところでさぁ、りんごちゃん玄関で『私はまだ処女だぁ!』って叫んでいたけど。残念ねぇ――――。みかんちゃんに貫通してもらっちゃう?」


ぶっ!

口からお寿司が噴き出た。

ゲホゲホ! 同時にみかんもむせていた。


「奈々枝さん。む、無理っすよ……俺」

「あらそうぉ、いいんじゃないのぉ!」


「だって俺、駄目なんですから。だからお袋の奴、ここに住めって条件出しやがったんじゃないですか」

「えへへ、そうだよね。そうだったわよねぇ。ねぇさんからも私の好きにしてもいって言う御済付きだったもんね」


何なんだ、この会話。意味不明。


「で、さぁうちとしても、りんごちゃんの男性拒否症、改善してもらえるといいんだけどね」

ちょっと母上様。何でこんな話題になっちまうの?


確かに私、現実の男は苦手、と、言うよりも駄目、いやいや、拒否なんだけど、でも別に完璧に男が大っ嫌いと言う訳でもないんだけど。

私は2次元の男性が好きなだけ。


現実に私の理想にピタリと当てはまる男性が……。

ちらりとみかんの方に視線を向けて。

……いないだけなんだけど。


「へぇ―、りんごって男性拒否症なんだ」

「何よ! 別にいいじゃない。男が嫌いでも。別に困りはしないわよ」

「ふぅ―ん。ま、確かに。困りはしねぇな」


「ちょっとぉ―、そんな事で意気投合しないでよぉ。あなた達にはお互いに克服してもらわないといけないんだから。その為にみかん君を家で引き取ったのよ」


えええええっと。何? て、いう事はみかんも?

「もしかしてみかん。女性拒否症なの?」

俯きながらみかんは答えた。

「じ、実は俺……女苦手なんだ」


マジ! 


「そ、という訳で、少しでも女性に馴らすために私たちの所に来たっていう訳。うちのマンションも満室御礼だし、女二人暮らしも何かと物騒でしょぉ! でね、でね。こんなイケメンを好きにしてもいいって言うんだから、断る理由なんかどこにもないでしょ。じゅるじゅる」


母上様。よだれが……。

「あああああンん、もう、躰がうずうずしちゃぅ。なにせ生きた資料が手にはちゃったんだもん」

やっぱり、そこか……本心は。


「それにみかん君も、自分の仕事の為にもなるからね」

「仕事って?」

「あ、まだ言っていなかったよな。ようやく採用してもらったんだよ。最もまだ臨時なんだけど」


「何の仕事なの?」


「え―――――っと。こ、高校の教師」

へぇー、意外みかん先生になるんだぁ。


「何処の高校なのよ」

アムっと、お寿司を頬張りながら訊いた高校。


そこは……。


「私立崎山高校」


思わず、またお寿司を噴いてしまった。


な、何で……。


そこって、私が行っている高校じゃん。

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