第2話 アブノーマルで何が悪い! ACT 2

「はぁ、はぁ。もうここまで来れば大丈夫だろう」

彼は私の手をしっかり握りながら、この公園まで走った。


手を握り……?

ん?

まだしっかりと私の手を握っているその手を見つめ。


あれ? 何だろう。この人に触れるの嫌じゃない。むしろ懐かしい手の温かさを感じる。

街灯の明かりに照らされた彼の顔をそっと見つめた。


少し赤茶けたくせっ毛の髪。スッと伸びた鼻に少し細切れの目。

ん――、悪くない。

身長は大体175㎝くらいかなぁ。高からず低からず、ちょうどいい。

私の好きなBLマンガの主人公に何となく似ている。


これで、喧嘩が強くて、ボーイズラブならドンピシャなんだけどなぁ。

なぁ――――んて、そんな都合のいいようにはいかないよね。


「ん? どうしたの? 僕の顔に何か付いている?」

じっと見つめすぎてたのがいけなかったか? 彼が不思議そうな顔をして私を見つめる。


「いえ、なんでもないです。――――それよりも、怪我していません?」

「ああ、大丈夫だよ。あれくらい。いつもの事だし、彼奴のパンチそれほど重くねぇからな」

ふと、殴られていたお腹に目をやると、ボタンのとれたワイシャツの中から、均等に割れた筋肉質のお腹が見えた。


うそ! マジ! 腹筋割れてるぅ。―――――す、凄い!!


「あ、あんまりじろじろ見るなよ。恥ずかしいだろ」

「す、済みません」

でも、ボタンとれてるよ。


「ボタン……取れてるから」

「ああ、いいって。ま、仕方ねぇだろ」


「……でも」

「いいっていいって、気にすんな。それより気を付けて帰れよ。また変な奴に絡まれねぇよにな。子猫ちゃん」


子猫ちゃんって……。

「それじゃ」と白い歯をちらっと見せながら笑顔で別れを言う彼に


ドキッ! と胸が高鳴った。


馬鹿、馬鹿馬鹿……。何、あったばかりの人に何私ドキドキしてんの? しかも男にだよ!!

現実の男は嫌い。私の愛する男性は、2次元の中にだけ存在するんだから。


立ち去る彼の後姿を見つめながら、私の胸はまだドキドキしている。

ああああああ……。躰何となく熱い。

こんな気分になるのは、あのBLマンガを読んでいる時みたいだよ。

早く帰ってもっと奥に刺さりたい。


……て?


何であなたがここに?


今さっき別れて愛おしく見送った、あの背中がまた私の目の前に……ある。

「あのぉ―」

「ああ、なんだ君か。家この近くだったんだ」

「ここ……」


「んっ?」

「ここ私んち」

「ンっ? 私んちって」


「だからここ私の家なんだけど、何かうちに用事ですか?」

きょとんとする彼。その姿を見ていて、どこかで見たことがある様な無い様な。今じゃないよ。昔の事なんだけど、いまいち分からないんだよ。何となく昔に会ったことある様な気がしてきたんだけど。


「て、事は……お前『りんご』か?」

はぁ――――、何でその呼び名を知っている?


森野凛子もりのりんこ

私の名だ。


友達からは『りんご』って呼ばれている。――――間一髪『○んこ』と呼ばれなくて済んでいるのは救いだ。


ああああ馬鹿馬鹿、なに言ってんだ私は。


で、その呼び名を知っているという事は、私の近しい人。そう、りんごと私を呼べるのは親(母親のみ)と友達くらいだ。

なのに此奴はその名を知っている。いったい誰なんだ?


「なんだよ、ずいぶんと変わったなぁ。あのりんごがこんなにも可愛い子になってるなんて、思いもしなかったよ」


「あのぉ……一体あなた……誰?」

だから一体おめぇーは誰なんだよ!!


「おいおい、忘れちまったのか。なんか悲しいなぁ、て、言っても、もう10年以上も会っていねぇか。お互い分かんねぇかもしんねぇよな」

ニカッと笑いながら、私の肩にそっと手を添えて


「お前の初めてを頂いた男を忘れるなんて、……お前。やり魔か」


「私はまだ処女だ!!」と、言いながら反射的に思いっきり此奴の腹に拳をヒットさせた。


されど、私の拳くらいじゃ効かないというのは、もう分かり切っている。

そして―――――グラッと目の前の彼が倒れた。


「あれ?」


「ちょっと、家の前で何叫んでるの、りんごちゃん」

ナイス! 母上。勢いよく開いたドアに顔面をぶつけられて、倒れ込んだ彼奴の姿を目にして

「ざまぁ、ないね」


「あら、あらあら、どうしちゃったの? まぁ、みかん君? だよね。どうしちゃったのこんなところで倒れちゃって」


へっ! みかん君って……。


まさかあの……美柑? 君。


「『みかん』てまだ呼ぶんですか! もういい加減名前で呼んでくださいよ。奈々枝ななえさん」


おい、倒れながら言うな!


奈々枝。森野奈々枝もりのななえ私の母上様。なんとまだ35歳で、見た目がこれまたなんと20代でもまだ通ると、自画自賛している馬鹿な親。

性格、自我天然。

自己満足の自己欲全開丸出し。本能のままに生きる人。


んでもって、まだぶっ倒れている此奴は。


宮島美柑みやじまゆうき


親戚……?。基、母上の年の離れた姉様。私にとっては叔母様に当たる人の息子。

言わば従兄になる訳だが……。


しかし、何であの『みかん』がこんなにイケメンになっちまうんだ。

確かに久々の再会である。10年、いやそれ以上か。


それにしても変われば変わるもんだ。

気が付かなくて当たり前かもしれない。


あの泣き虫美柑。確か今年で24歳になるはずだが。


マジBLの世界に抜擢したい風貌だ。

中身はともかく……。

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