潜り込む義姉は危険です

 御坂玲彼女歴なし童貞(うるさい)の朝は早い。


「んー……んっ!」


「んっ♡」


 春の陽気を感じられる陽の光をカーテン越しに浴び、大きく背伸びとが一つ。

 壁にかかっている時計を見れば、時刻は6時ちょうどだ。


 朝食作って夕食の下ごしらえをするって考えたらこれぐらいには起きないといけない。

 ……惰眠を貪っていたいところだけど、朝食を食べないとやっていけない体なんだよなぁ。


「あ……っ♡」


 さて、いつまでも朝の陽射しが恋しく思わないで顔でも洗ってこようかな。

 こうしてのんびりだらだらしちゃうと、ベッドから起き上がれなくなっちゃう。


「ん……っ♡」


 とりあえず、起き上がる前に僕のでも確認しておこう。

 ……大丈夫、素っ裸じゃないし、特有の乱れもシワもない。なんなら、パンツ一丁でもない。


(……よかったぁ)


 心の底からの安堵の息が漏れる。

 大丈夫、僕のは守られているようだ。

 だから────


「れい……くん……っ」


「玲くんじゃないわボケェェェェェェェェッ!!!」


 僕は思いっきり布団を捲り上げた。


「ふぇ……? ど、どうしたの玲くん!?」


 捲り上げると、そこにはきめ細かな白い肌と眼福としか言いようのないナイス肢体。そして、艶やかな金髪を扇状に広げていた少女の姿があった────下着姿で。

 突然大声を出したからか、彼女は驚いてしぱしぱした目を擦り慌てて起き上がった────下着姿で。


「どうしたもこうもなくない!? 何、ちゃっかり僕の朝のさとりに介入してんのさ!?」


 ご丁寧に、何食わぬ顔で。

 しかも下着姿で。

 普通に僕のベッドに潜り込んでいる。


 昨日の僕よ……どうしてミラねぇが潜り込んできたことに気が付かなかった?


「え〜! だって、私のベッドもお部屋もないんだから玲くんと一緒に寝るしかないじゃん〜」


「見え透いたの嘘をこうもペラペラと……っ!」


 2LDKの我が家にミラねぇの部屋が存在するというのは間取りを見れば明らかだろうに!


「そ、それに……っ! どうして下着なのミラねぇ!?」


 淡いピンク色にレースがついた色っぽい下着。

 かつ、ミラねぇの魅惑的なボディは守るべき布地を犠牲にしてアピールしている。


 普通の姉弟ならともかく、こちとら1年ちょっとしか一緒にいない姉弟なんだ。

 この前まで赤の他人だった人間の下着姿を見れば、そりゃあもう刺激的に決まっている。


 特に、山脈を作りし上乳は破壊力抜群、息子に与える栄養が満天だ。


「いい、玲くん……ドイツでは、寝る時はみんな下着なんだよ!」


「ダウトっ!」


「嘘じゃないよ〜」


 僕は無知で愚鈍だけど、そういう文化がないことは流石に知っている!


「……この際だから言っておくね、ミラねぇ」


「うん」


「本来、年頃の男の子と女の子が同じ屋根の下で暮らすという行為はかなり危険なんだ」


 僕は真っ直ぐと、ミラねぇの下着を見ないように気をつけながら語る。


「男は野獣。ミラねぇみたいに魅力的な女の子と一緒にいれば手綱は切られ、目は血走り、涎を垂らしながら赤ずきんちゃんに襲いかかる狼に成り果ててしまうんだ」


 あまつさえ、普段の格好は下着の次ぐらいに際どくはっきり言えばエロいんだ。

 普通に暮らす以上に獣へと成り果てやすい。


「うんうん」


「ミラねぇも、野獣と化した僕に襲われたくないでしょ? だから、こういった行動は控えるべきなんだ! ましてや、僕の布団に潜り込むなんて────」


「おっけ〜! これからもベッドに潜り込むね〜!」


 しまった。この人にこの説得は逆効果だ。


「言っておくけど、お姉ちゃんは無理やり襲って玲くんとそういう関係になりたいわけじゃないんだよ?」


 下着姿を隠そうともせず、ミラねぇは僕の顔を覗き込む。


「無理やりはよくないもん。ちゃんとそこはお姉ちゃん、人として理解してます」


「ふむ……」


 どうやら、ミラねぇにも大切な人としての倫理が残っていたようだ。

 普段、僕の気持ちも考えず迫ってくるもんだから、そこら辺の倫理観が希薄になっていると思っていたけど……ちょっと安心。


 ……あれ? でもさ────


「じゃあ、どうして僕のベッドに下着姿で潜り込んできたの?」


「玲くんから襲ってきてもらって責任を取ってもらおうかと思って」


 この子はもしかしたら倫理観や貞操観念がどこか欠如しているかもしれない。


「要するに、自分から襲うのはダメだと思ってるけど、僕から襲わせたら責任を取らせられる。だから、こうして誘惑の極みで僕のプラスチック並の理性を揺さぶっている、と?」


 グッ!(ミラねぇがサムズアップする音)


「…………」


 そっかそっかー。


「とりあえず、お父さんに連絡してミラねぇを引き取ってもらおう」


「あ〜! どうしてそんないじわるをするの〜!?」


 身の危険を感じるからですが、何か?


「お姉ちゃんは、玲くんのことが大好きなんだよ!?」


 ミラねぇがスマホを操作しようとする僕の腕を必死に掴み、制しようとする。

 その時に触れてしまうミラねぇの双丘の柔らかい感触がこれでもかと伝わってきて辛い。興奮する。


「うん、知ってる」


「異性として大好きなんだよ!?」


「知りたくなかったけど、知ってる」


 こんなに美人な人に告白されて嬉しくないのは初めてだ。


「Also möchte ich erotisch sein!」


 そして、興奮気味に出てくる言葉は言語理解に苦しむ流暢なドイツ語であった。


「えっ? 何て言ったの?」


「だから、えっちがしたいのって言ったの!」


 ミラねぇはどうして直接的願望をドイツ語にしたがるんだろう?

 ここはジャパンなんだからジャパンらしくジャパニーズでいこうよ。

 平凡以下の男子高校生にはドイツのドイツらしいドイニーズなんて知らないよ。


「はぁ……今日はもういいけど、次からは絶対にやめてよね」


 これ以上問答しても仕方がない。

 朝食の準備もしなきゃだし、僕は胸を触りながらミラねぇをゆっくりと引き剥がした。


「……今、さり気なくお姉ちゃんのおっぱい触ったよね?」


「気のせいです」


 好きな子がいるのに、誘惑に負けて触るなんてことあり得ないじゃないか。

 もし触ってしまったのだとしたら……そう、それはきっと不可抗力という名の『手が滑った』だろう。


「玲くんって、本当にすけべぇな男の子だよね〜。えっちぃ本読んでるし、いっつも私のおっぱいばかり見てるし~」


「そんなことないやい」


「じゃあ、お姉ちゃんこの下着姿を写真で送ってあげるって言ったら?」


「高画質で10枚ほど送ってください(別にミラねぇの写真なんかいらないよ)」


「玲くん、本音と建前が逆だよ」


 何て卑劣な誘導尋問何だろうか。

 小狡い手を使う義姉には困ったものだ。


「まぁ、いいや〜! じゃあ、玲くん────ご飯、準備しよっか♪」


 そう言って、ミラねぇは満足したのかいつもの陽気でベッドから立ち上がった────やっぱり、隠そうともせず下着姿で。


「……本当に、困りすぎて困る」


 ミラねぇは魅力的な女の子だ。

 いくら姉弟とはいえ、義理でこの前まで他人だったミラねぇに迫られてしまえば、僕の理性はいつかゲシュタルト崩壊してしまうかもしれない。


 というか、もしかしたら崩壊も時間の問題かもしれない。


「……はぁ」


 部屋から出ていくミラねぇの姿を見て、僕はため息をついてしまった。


 朝から本当に困ったよ(´;ω;`)。


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