青い
「ほーん。そういうことか」
川本さんと二人、ボックス席に座る。「内緒話はこっちの方が雰囲気でるやろ」という川本さんの提案で、カウンター席から移動してきた。確かに、友達と集まったファミレスのような気持ちになった。喫茶店でこんな例えはおかしいとは思うけれど、そう思ってしまったのは確かだ。
「まぁあれや、要するに、アホっちゅうことやな」
「え、要し過ぎでは…」
「だってそうやんか。あめちゃんへの気持ちを自覚して?でもあめちゃんの大切を奪いたくないから?結局一歩引いたっちゅうことやろ?」
「まぁ、間違ってはいませんけど…」
「やっぱりアホやん」
自分でもよくわかっていない感情をただただ並べてみたところ、それを川本さんが綺麗に並べ直してくれた。僕の感情は川本さんによって一つずつ紐解かれて、少しずつ整理されている。
「…僕は、大切な人には幸せでいてほしいんです。このお店が雨里さんにとって、その幸せの一部になれているのなら、それを壊すことになる僕の感情は邪魔でしかない。そう思ったら、変に意識してしまって」
「それであんな大きな声で否定したっちゅうわけか」
「はい」
「好きな人の幸せを願うのは大いに結構や。でもな、勝手にテンパって傷付けて。呆れて物も言えんわ」
返す言葉もないほどの正論をぶつけられ、僕はぼーっとテーブルを見るしか出来なかった。情けないことに、その視界に珈琲カップが現れるまで、僕の思考はグルグルと渦巻き続けていた。
「あめちゃんの【大切】が何かなんて、あめちゃんにしかわからんやろ。それをマスターが勝手に決めつけて、わかった気になっとんなよ」
「………」
「逆に聞くけど、そのよそよそしいマスターの態度で【大切】が保ててると思っとんか?余計な気ぃ回そうとすんなら、きちんと隠し通さなアカンやろ。中途半端に居心地だけ悪くしてどうすんねん」
「…おっしゃる通りです」
「俺はな、お情けで通ってるんと違うからな。マスターの店やから通っとるんよ。飲みもんも食べもんも、この店の空気も。全部マスターが創りあげたもんやろ。爺ちゃんの大切なものを守りながら、ちゃんとマスターが創ってきたものやろ」
真剣に伝えてくれる川本さんの目は力強く、さっきまで彷徨いていた僕の視線も吸い込まれるほどだった。
「なにが言いたいかっちゅうとな。意固地にならんと、変に考えんと、自然体でええんよ。マスターのことやから色々お堅く考えるんやろうけど、そこも良いとこってさっきも言ったけど、もうちょい流れに任せてみてもええんと違う?って」
「…そう、ですかね?」
「少なくとも俺はそう思っとるし、きっとあめちゃんもそう思っとるはずや!かわもっちゃんを信じなさい!」
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