一初

まだ肌寒い日が続く4月。川本さんにお出しする珈琲を淹れながら、いつものように世間話をしていた。


「最近どうなん?上手くいっとるん?」


「…何がでしょう?」


「あめちゃんに決まっとるやん!何なんいちいち白々しいな!そーいうとこやで!」


淹れたての珈琲をカウンターにそっと置くと、勢いよく手にして「アッツ!」と言いながら飲む川本さん。いつも「熱いのでお気を付けて」とお伝えしているのに、どうしてもせっかちなところが川本さんらしい。


「なぁなぁ。このキッチンの先が家に繋がっとるんよな?」


「そうですよ。だから帰宅するのも一瞬です」


「ほぉ〜。通勤時間いらんのは最高やな!」


「はい。寝坊してもギリギリなんとかなります」


「自分でも寝坊することあるんや。なぁ今度お邪魔させてや〜」


「えー、なんでですか」


笑いながら、今度は自分用の珈琲を淹れる。他にお客さんがいないときは、川本さんと一緒に珈琲を飲むのがお決まりになっている。


「だって気になるやん。え、ここ抜けてすぐは何に繋がってるん?」


好奇心に溢れた川本さんの言葉と、入り口のベルの音が重なる。


「こんにちは」


「お〜あめちゃん!」


「雨里さん。いらっしゃいませ」


ベルを鳴らしたのは雨里さんだった。「お二人と同じので!」と言ってから、慣れたように川本さんの隣に座る。仲が良すぎる常連さん達を微笑ましく思いながら、また珈琲を淹れた。


「お二人揃って楽しそうでしたね!なんの話をしてたんですか?」


こちらも好奇心に溢れた目をしていた。本当に仲が良い、羨ましくなってしまうほど。


「マスターの家の話してたんよ。あ、知っとる?このキッチンの…」


「キッチンの奥ですよね!私一度お邪魔したことあります!」


「はぁ!?な、どういうこと!?」


…それは言っちゃいけないやつですよ、雨里さん。


「え、お風呂をお借りしたんです」


「風呂!?」


…余計にややこしくしないでください、雨里さん。

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