第41話・最悪な来訪者
「おはようございます。王女殿下」
「おはよう。トリアム。今日の朝食は陛下もご一緒なのね?」
食堂に姿を見せたアデルに、陛下の給仕をしていたトリアムが声をかけてくる。
「昨晩陛下は、ハロルドと随分とお酒を召されまして、帰宅がおぼつかない御様子だったので、客間にお泊り頂いたのですよ」
「そうだったの」
ソラルダットを見れば、今朝がたのこともあるのでこれ以上、この話題に触れてくれるな。と、いうような目線をもらう。なんだかふたりだけの共通の秘密をもったようで、くすぐったい気持ちだ。
テーブルの上には、レタスやトマト、キュウリを盛ったサラダに、白身魚のムニエル、玉ねぎやジャガイモ、カリフラワーや、ニンジン、セロリ、ソーセージをコーンスープで煮こんだポトフが並び、焼き立ての酵母パンが添えられていた。
「陛下。ご気分は如何ですか? 具合は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。酔いはすっかり抜けているからな」
(そうでしょうねぇ。わたくしと同じベットのなかで寝ていたと知った時の、あなたさまのお顔は血の気が引いてらしたもの)
明け方のソラルダットはアデルを見て、酔いが一気に覚めた顔をしていた。昨晩、ほどよく酔ったソラルダットは、客間とアデルの部屋を間違えて忍びこんだらしい。どうして外から入ってきたのか謎だが。
「陛下はかなり酔ってらして、何度かトイレに起きられたようで、昨晩外を見回っていた警備の兵が、花壇で寝ている陛下を見つけて、何度か部屋にお送りしようとしたものの、急に駈け出されて行方が分からなくなり、一晩中捜しまわっていたようですよ。明け方客間で寝ているのが確認取れて、皆安堵しておりましたが」
(じゃあ、あれはトイレからの帰り?)
離宮のトイレは、汲み取り式になっていて、宮殿の一番奥にあった。昨晩は満月ということもあり月明かりで辺りが明るかったし、気分良く酔ったソラルダットは、庭を散策して回ったのかも知れなかった。そこでタイミング悪く、ベランダに面しているアデルの部屋に目をつけて入り込んだのかもしれない。一晩中陛下を捜し回っていた警備の兵たちには同情したくなる。
(その頃、陛下はわたくしのベットで寝てました。なんて間違っても言えないわね)
「それは警備の者に悪いことをした。酔っていて意識がなかったとはいえ、余が悪かった」
と、言いながらソラルダットがアデルの方を見てきて、アデルは苦笑した。昨晩の陛下は普段の彼とは想像もつかない姿をさらしていた。振り回された警備の兵はお疲れのことだろう。
「余の捜索にあたった者は、休ませてやってくれ」
「後で、ハロルドに伝えておきます」
アデルがソラルダットと顔を見合わせて笑うと、トリアムが不可解そうな顔をした。そこへリリーが飛び込んで来る。
「侍従長! 大変です」
「リリー?」
リリーはアデルの呼びかけに気がつかなかったようで、ずかずかと食堂に入って来ると、トリアムの腕を引いて食堂の外へ出て行ってしまう。ただならない様子に心配になったアデルはその場で立ちあがりかけたが、ソラルダットに止められる。
「王女。何かあればハロルドが報告して来る。まずは食事を済ませた方がいい」
「でも……」
「大丈夫だ。大したことではない」
リリーの様子から何か起きている様な気がするも、ソラルダットにそう言われてしまえば、従うしかなくアデルは食事をすすめたのだが、廊下の方がにわかに騒がしくなってきた。
「貴方じゃ話にならないわ。ここの主を出して!」
「だからさっきから言ってるじゃないの。わたしが……よ! 本物よっ」
「離しなさい。しつこいわね。出しなさいよ。ここにマクルナ国王がいるのは分かってるのよ。わたしの口から話すわ! そこをおどきなさいっ」
トリアムやナネットが、誰かを制してる声に交じって、ヒステリーめいた少女の怒鳴り声も聞こえてきた。少女は周囲の者に威圧感を与えつつ、こちらに向かってきてる様だ。
(あの声は………!)
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