第11話 姉がおばけ屋敷にやって来る

「きゃー!!!」

鈴(りん)は一人でおばけ屋敷の中にいる。


今日は友だちと遊園地に来ている。

いくつかのアトラクションを楽しんだ後、昼食をとっているときに「じゃんけんで負けた人がおばけ屋敷に一人で入る」ということになった。


そして今、じゃんけんにすんなり負けた鈴がおばけに次々と驚かされている、という状況だ。


ちなみにこのおばけ屋敷の対象年齢は12歳未満だ。

受け付けの貞子が鈴のことを小学生だと思ったのだ。


「こわいよぉ〜…」

あからさまな機械音、まったく隠れていないワイヤー、場違いなJ-POP。

小学生でも怖がらないであろう建物の中を、鈴はこの世の終わりのような顔をして歩く。


ボカーン


「わぁああ!!」

おばけが爆発した。

鈴は恐怖のあまり、その場にしゃがみこんでしまった。

「う、ううう…」

おばけ屋敷に入って10分。

しかし歩いた距離は6メートル。

さらに、人気のないアトラクションのため誰も中に入ってこない。


このままでは閉園時間まで動けない…

そう思われたとき、


ピーピロリロ


「?」


ピーピピピ


おばけより圧倒的に人の不安を煽る謎の音が聞こえてくる。


そして、


「妹ぉおお!!!」

「!」


入り口の方を見ると、背の低いシルエット。

逆光で色も顔も認識できないし、高さは約1メートルしかない。

だが、鈴はすぐにわかった。

「この声…おねえちゃん!」

姉の涼(りょう)が助けに来てくれたのだと。


チャリン

ピーピロピーロ

「?」

涼の登場とともに、再び異音が鳴り響く。

おばけ屋敷の効果音かと思われたが、涼が近づくに連れてその音は大きくなる一方。

というか、涼の近づくスピードが遅すぎる。


「あ…」


いつもの涼と様子が違う理由が、涼が近くに来てようやくわかった。


「待たせたね」

「パンダさん…!」


涼は、パンダカーに乗ってやって来たのだ!


ピロピロピー


パンダカーは愛らしい表情で鈴を見つめる。

そのおかげで、鈴の中から恐怖が消えた。

「鈴、大丈夫?」

「うん!おねえちゃんとパンダさんが来てくれたから!」

「そっか、よかった。それじゃいこっか」

涼は100円玉を掲げながら、鈴に手を差し伸べる。

「…!うん!」

鈴はその手を取って涼の後ろに乗る。

チャリン

ピッピーピロロロロ

そして、二人仲良くパンダカーでおばけ屋敷を横断した。

その間、100円を8回消費した。

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