(二)-3

 車を停めて店に入るまでの間、法子はそうぼやいていた。

 店内に入ると、二人は窓際の畳敷きの座敷席に上がった。

 それぞれ注文を済ませると、正義はメニューを置きながら法子に用件を尋ねた。

「比寄組のボスって、誰なの?」

 唐突に何を言い出すのか。昔からストレートな物言いをする人間だったが、社会人になってさらに冴えてきたように見える。

 それにしても、比寄組の組長が誰なのかは極秘事項だ。というのもそれは正義自身だったからだ。このことは組の人間にも話していない。組長のすぐ下に部下を束ねる番頭がいて、正義がその番頭に直接電話で指示を出すことになっていた。非通知でかけるため、向こうから電話がかかってくることはない。いつも正義が一方的に指示を出すのだ。組の中はもちろん、署内でもそれを知っている人間はいなかった。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る