第19話 二度目の敗北

「お前にも、あんな立派な息子ができているとはな」


「あぁ、自慢の息子だ」


 剣を交える二人。

 会話だけ見ると、世間話だ。

 が、緊張感はMAXだ。


「だが、その顔を見るのも今日が最後だ!」


「ぐっ!」


 剣が押し込まれていく。

 佐藤が弱いわけではない。

 ロイエルも、強くなっているのだ。


「たしか……お前の弱点は……」


 佐藤の剣から、炎が噴き出す。

 そう、情熱の炎こそが……。


「そうだな、前まではな」


 ロイエルは、トカゲらしい長い舌を出して笑った。


「なに?」


「地獄の業火で毎日焼かれていたら、耐性ぐらいつくわ!」


 なるほどね〜。

 それはまずいね。


「そ、それじゃあ……」


 まずいな。

 佐藤が焦ってる。


「今度はお前が地獄に堕ちろー!」


 ちょっとブレサルー!?


「なんだー!」


 お父さんを落ち着かせて!

 このままじゃ負ける!


「わかった!」

「お父さんー! 落ち着いてー!」


「ブレサル……」

「そうだよな、冷静さも勇者の心得……」


 よし、これでまともに戦えるはず。

 佐藤は、強いからね。


「こんなときこそ、落ち着いて……」


「おいおい、どうしたってんだ?」

「目をつぶって、死ぬ覚悟でもし始めたか?」


 それは違うな。

 佐藤は今、精神統一中だ。


「む?」


 勇者の剣から、水が湧き出る。

 それは地に落ちず、剣を覆う。


「おい、なんだこれは!」


 剣に呼応するように、洞窟も水色に光りだした。


「ロイエル、僕は再び君を倒させてもらうよ」


 佐藤はロイエルを見据える。

 その瞳には、覚悟が宿っている。


「ふん、そんなこ……おっ!?」


 するりと、佐藤の剣が抜ける。

 ロイエルは、バランスを崩した。


「この野郎!」


 怒るロイエルの攻撃。

 しかし、どれも避けられる。


「冷静になれば、避けるのだって簡単さ」


「ば、ばかな!」


「もちろん隙も見える」

「ここだね」


「うっ!」


 佐藤の振るう剣が、ロイエルを斬る。

 柔らかそうな見た目の水とは裏腹に、切れ味は抜群だ。

 ウォーターカッターみたいに。


「その傷じゃ、もう長くはない」


「くっ、くそっ!」

「こんなところで敗れるわけには!」


「何をする気だ?」


「せめてお前だけでも!!」


 ロイエルが、飛びかかる。


「無駄だよ……え!?」


 斬られても、突っ込んでくる。

 どうやら相打ち狙いのようだ。

 予想外の行動に、佐藤は避け損なった。


「へへへ、一緒にあの世に行こうぜ?」


 ロイエルの剣が首に当てられる。


「お父さん!」


 ブレサルが走る。


「来るな!」


 危ないからね!

 え、でも!

 ど、どうするの!?


 ゴゴゴゴゴゴゴ。


 そのとき、洞窟に地響きが。


「な、なんだ?」


 バッゴォーーン!


 突如として、壁が砕け散った。

 土煙の中から、巨大な触手が現れる。


「な、なに?」


 あー、こいつは……。


「おい、やめろ!」

「なにをする!!」


 ロイエルは触手に巻き取られ、洞窟の外に消えていった。


「た、助かったのか?」


 佐藤はその場に倒れ込む。


「あ、お父さんヤバい!」


「どうした……」


「水が入ってきてる!」


「なんだって!?」


 見れば、先ほど触手が開けた穴から水が流れ込んできている。


「お母さん、まだ起きないよ!」


「そんじゃあ、二人で担いでくぞ!」

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