第5話 豆狸、再び巣穴を探す旅に出る

翌日の夜、豆狸まめだは狸達に見送られ再び巣穴を探す旅に出る事になりました。



『『『豆狸まめだ様、お元気で~!早く新しい巣穴が見つかる事をお祈りしております。』』』


『うむ…お前達も元気でな。』



さて再び歩き出した豆狸まめだ…今度は川向こうの山のお寺に住む、従兄の豆狸まめだの所に行く事にしました。



ここからだと遠いので、ひとまず一番近い川沿いにあるお寺を目指す事にします。



そこは昔からあるお寺で、人間の家がたくさんある場所に近いのですが、従兄の豆狸まめだが住むお寺への安全な近道の側にあって、少しの間休むのにちょうど良いのです。



この辺りは夜中は人通が少なく化けなくても大丈夫そうです。

そのまま鉄の橋を渡り、大きな道の反対側に行くと同じ車がたくさん止めてある場所の側に出ます。



そこを囲う柵に沿ってしばらく歩き左側に進むと大きな川があるのです。

昔は越えるのに苦労しました。



今は立派な橋があるので安心です。

橋を渡って暗い川沿いを歩き、古いお寺に着いた頃、夜が明けて朝になりました。



豆狸まめだは人間に見つからないように、夜までお寺の床下に隠れて寝る事にしました。



『やれやれ、流石にここまで来ると疲れるのぅ。

久しぶりにここまで来たが、昔より人間達の家が増えたな…… 』



昔はこの辺りにも狸がいましたが、今はいないようです。

ここには、たくさんの人間が住んでいる大きな建物がいくつも立ち並んでいるので見つからないように急いで駆け抜けます。



しばらく進むとさっきより大きなキラキラした建物が見えてきました。

何やら良い匂いもしてきます。

どうやらこの辺りは、食べ物を売る店がたくさんあるようです。



ついフラフラとそちらの方へ行ってしまいそうになりましたが、人間に見つかってしまったらたいへんです。



豆狸まめだは、ヨダレが垂れそうになるのをがまんしながら、こっそりと進みます。



食べ物屋からは、酔った人間達が出て来てお酒の匂いをさせながら歩いています。



『あゝワシもお酒が呑みたいのう……

この町のお酒は特に美味い。

隣りの寺の和尚と一緒に呑んだのが懐かしい…… 』



昔なら葉っぱのお金で買えたものでしたが、今はそんな事をするとたちまち人間に捕まってしまいます。



豆狸まめだは、ため息を吐きながら食べ物屋の脇を通り過ぎました。



『この辺りも昔は田んぼばかりだったのに、変われば変わるものじゃな…… 』



そうつぶやきながら進んで行くとやっと少しだけ昔の面影のある場所に出ました。



ずっと昔は無かった、大きな道の下の穴をくぐれば、従兄の豆狸まめだが住むお寺まで、もう少しです。



穴を通り抜けてしばらく歩いていると豆狸まめだはある事を思い出しました。



『そういえば昔、この辺りになかなか賢い虎毛の犬がいる家があったのぅ。

あの家の柿は甘くて美味しかった…… 』



あそこの親父は呑んべえで、いつだったか狸の剥製はくせいを自慢していた事があった。



仲間のかたきとばかりに従兄の豆狸まめだと親父を化かして、お酒をせしめた事は良い思い出である。



さて、ここまで来たら本当に後少し……

夜が明ける前には、従兄が住むお寺に着くだろう。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る