第2話 豆狸、新しい巣穴を探す旅に出る

巣穴を壊されてしまった豆狸まめだは、仕方なく新しい巣穴を探す事にしました。



豆狸まめだは、考えました。

いつもエサを探している山の方も最近家がたくさん建ち始め、直ぐに追い出されそうなのでやめた方が良さそうです。



夜まで茂みに隠れ、寝ながら考えて町の真ん中に小さな山があったのを思い出した豆狸まめだは、とりあえずそこへ行ってみる事にしました。



真夜中…人間に見つからない様に電車の通る道の上にある橋を渡り、人通りの無い昔からある古い小径を通って、前はうるさい赤い車があった所を過ぎ、車が来ないのを確認して道を渡り、さらに南下して行きます。



しばらくすると、とても大きな道に出ました。

ここは夜中でも車がひっきりなしに走っている、とても危険な場所です。

でも豆狸まめだは知っています。

ここには人間達が安全に道を渡る為の、大きな鉄の橋がある事を……



でもここからがたいへんです。

途中で人間達に見つかっても隠れる所がありません。



そこで、近くに生えていた葉っぱを頭に乗せ、神通力を使えばあら不思議…豆狸まめだは旅館の隣りにあるお寺の和尚さんの姿になりました。



和尚さんとは、この町の名物のお酒を、夜一緒に呑んだりしていたので、よく知っています。

狸が和尚さんに化けるのは、昔話では定番ですし……

これで安心して大きな鉄の橋を渡る事が出来ます。



豆狸まめだ和尚がヨッコラヨッコラ鉄の橋を渡っていると、反対側から酔っぱらった男がやって来ました。



「ありゃ?駅向こうのお寺の和尚さんじゃないですか?

こんな時間にどうしたんです?」



話かけられた豆狸まめだ和尚はあせりました。

実は人間に化ける事はできても、しゃべる事はできなかったのです。

どうやらこの男は和尚さんの知り合いだったようです。



しかたなく鉄の橋の向こうを指差した後、頭を下げてからまたヨッコラヨッコラと橋を渡って行きました。



やがて、豆狸まめだ和尚は鉄の橋を無事に渡り切って暗闇に消えていきました。

酔っぱらった男は和尚は年寄りだから取り敢えず見えなくなる迄見送り、上機嫌で帰宅しました。



「お~い♪今帰ったぞ~♪♪」



玄関先で男が呼ぶと中から奥さんが出て来て言いました。



「あらあらお父さん、そんなに呑んで…… 」


「さっき駅向こうの寺の和尚が陸橋を歩いてたから、挨拶して見送ったんだ。ホラ、白髪の眼鏡掛けた爺さんの… 」



すると奥さんはあきれた顔で……



「あらやだ。お父さんどんだけ呑んだのよ。大和尚さん、暫く前にお亡くなりになったじゃない。

まったく、酔っ払って無いで早くおふろはいってくださいな。」



そう言って奥さんは家の中に引っ込んでいきました。



酔っぱらっていた男は奥さんの言葉にすっかり酔いも覚め、玄関に立ちすくんでいましたが、とうとうペタンと腰を抜かしてしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る