12

黒部の運転する車の中で、俺はミラー越しに彼女を見た。何処か気持ちが落ち着かなかった。正直、状況を把握し切れていないのかもしれない。


彼女から漂う匂いは、百合と同じだったが、何処か違和感を憶えた。今の彼女から、感情が余り見られないからだろうか。彼女は表情を見せない。笑わない彼女が、少し悲しかった。


ふと、彼女の笑顔が見たいと思った。


「彼女の人格が、勝てば良いな」


黒部が静かに言う。


「あぁ。其の為には、彼女の人格を呼び起こさなければな」


「お前ならば、出来るさ」


黒部から、穏やかな匂いがした。


「なぁ。アンタに一つ、頼みたい事が在るんだが、良いか?」


黒部は多分、裏切らないだろう。其れに、こんな事を頼めるのは彼しかいない。


「何だ?」


「此の間、クズ婆を見付けた時に、引き出した情報なんだが。俺がドルフィンの元で、最後のギャンブルをした在の日、篠崎義則と別の人間の資料を差し替えたのは、ドルフィンの意図とは別の所に在るらしいんだ」


「其れは一体、どう言う意味だ?」


「誰か別の人間が、資料を差し替えさせたんだ」


「まさか。そんな事をして、特をする人物がいると言うのか?」


「解らない。一体、何の目的が在ってかは解らないが、資料を差し替えた人物は確かに存在するんだ。アンタに、其の人物を突き止めて貰いたいんだ」


俺は其の人物が許せない。何が在っても、其の人物を見付け出して、ドルフィン同様に殺す。


「おいおい、随分と穏やかじゃない顔をするな。イルカが怖がるぞ」


言われて、我に返る。


「まぁ、出来る限りの手は尽くそう」


其れから、沈黙が降りて車は走り続けた。

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