回答⑥🌰🌰🌰🌰🌰 🌰

 🌰🌰🌰🌰🌰 🌰


「わかったよ。僕も一緒に行く。きみといつまでも、一緒に暮らすよ」


 彼女が両手を口に当てて驚いている。


 いつの間にか、こんなに表情やしぐさが豊かになってたんだ。

 彼女が優秀な理由を再確認した。


「それって……プロポーズ?」


「世間ではそう言うらしいね」


「嬉しい……!」

 

 彼女は両手を伸ばして僕を抱きしめた。

 こんなしぐさも思った以上に柔らかくて、惚れ直してしまう。

 彼女は、体を離してもう一度僕の目をのぞき込んだ。


「関川くん、本当にいいの? 許してもらえるかしら……?」


「二人であの人に頼んでみよう。僕の御主人さまはあの人にぞっこんだから、きっと許してくれると思う」


「わかったわ。それじゃ、あの人にお願いする言葉を二人で考えましょう」


「きみの言葉なら間違いないだろうね。ほかにも準備することが山ほどある。これから忙しくなるぞ」


「関川くんと一緒なら、どんなに大変でも平気よ、あたし」


 それから僕たちは、長い長い時間をかけて、僕たちが離れなくてもすむようにお願いするための言葉を考えた。



  ◇ ◇ ◇



「というわけで関川くん、あたしのうちに二人とも来ることになりましたー」


 僕は飲みかけたコーヒーを勢いよく噴き出した。


「なんで!?」


「だって二人がそうお願いしてるんだもーん。離れたくないんだってー」


 二子ちゃんは、二人が作成した嘆願書を見せてきた。確かに、彼らの言葉で、二人一緒に彼女の家で暮らせるようにしてほしい、と書いてある。


「やっぱり二人とも優秀だよねー。いつの間にか、こんな複雑な感情まで理解できるようになったんだね」


「そりゃね、ピンクペッパーをきみのところへ連れてくことには同意したけど。ブラックペッパーまで連れてくって……。一応言っとくけど、二人とも高かったんだよ?」


「じゃあ、さ」


 二子ちゃんは身を乗り出して、至近距離から僕の目をのぞき込んだ。不覚にも心臓がドキンとはねる。


「二人が離れなくてもいいように。あたしたちも、一緒に……」

「一緒に暮らそう。二人で」


 二子ちゃんよりも先に。やっぱり僕の方から言いたかった。

 僕が、言いたくて、でもずっと言えずにいた言葉。

 


 二子ちゃんが遠くへ行くと知ったとき。彼女の願いに応じて、僕は二台目のロボット・ピンクペッパーを譲ることにした。


 お互いのペッパーで通信すれば、僕たちの距離も近くなる、そう思ったから。

 まさか、ペッパーどうしが離れたくないと主張してくるとは思わなかった。


 ペッパーたちの方が、よっぽどコミュニケーションに長けているんじゃないかと思う。

 行かないでほしい、離れないでほしい、って、僕の口からはどうしても言えなかったのに。


 そのあと、なぜか彼女が遠くへ行く話はなくなった。

 でも、会おうと思えばすぐに会える距離にいるのに、その距離さえも歯痒く感じている自分に気がついた。


 一緒に暮らせば、その距離をなくせる。

 だから僕は、今度こそはっきりと伝えよう。


「一緒に暮らそう」


 そう伝えたときの彼女の顔は、きっと忘れられない宝物になるだろう。

 タイミングよく、ブラックがシャッター押してくれたしね。


 

 その日から、僕たちの新生活のための手続きが始まった。

 ものすごく忙しくなったけど、二人でずっと一緒にいられるなら平気だ。

 あ、ペッパーズを入れたら四人かな?



 🌰🌰🌰🌰🌰 🌰


 『うちのブラックがピンクにプロポーズしたと知って泡噴いた件~お父さんはまだそこまで許しません!』


 <終>

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