回答⑤🌰🌰🌰🌰🌰
🌰🌰🌰🌰🌰
僕の体型に合わせてビシッと仕立てられたスーツ。
鏡の前で動いてみても、決して僕の動きを妨げない。ジャストフィットだ。
二子ちゃんの言うとおり、確かに僕に似合う。
二子ちゃんもスーツだ。髪をひとつにまとめてアップにし、銀縁メガネまでかけた姿はどう見てもデキるキャリアウーマン。タイトスカートからすらりと伸びた、ストッキングに包まれた脚線が美しい。
僕と並ぶと、カップルというより、これから営業に出かける上司と部下ってところか。
「二子ちゃん、やっぱり無理だよ、僕には……」
「情けない声出さないで。関川くんも一応社会人でしょ? それらしくシャキッとしなさい。でないとナメられるわよ」
どうやら彼女の方が上司役らしい。
それぞれに立派なビジネスバッグを抱えた僕らは、いよいよ出陣のときを迎え、二人で電車に乗り込んだ。目的地の最寄り駅に到着し、さっそうと改札を抜ける彼女。コッコッとリズミカルに響くパンプス音が頼もしい。
目的の地――彼女いわく「取引先」に到着すると、彼女は流れるような動作で相手に名刺を差し出した
――否、名刺ではなく、「ご予約伝票」と書かれた一枚の紙。
「領収書お願いします。(株)関川商事・夢色レボリューション部で。漢字は股関節のカンに
「……え、は、はい……」
わかりやすく困惑した店員さんは、それでもちゃんと指示通りに取引を成立させてくれた。彼女の前に、領収書とひとつの袋が差し出される。
続いて僕も同じように取引を完了させた。(ただし宛名をただの「(株)関川商事」にしたため、あとで二子ちゃんに「詰めが甘い」と怒られた)
こうして手に入れた物品をそれぞれのビジネスバッグにしまい、僕らは街へ消えていく。
雑踏を抜けたところで、おもむろに二子ちゃんが切り出した。
「わかってるわね、関川くん」
「……わかってる、わかってるよ……」
行き着く先は――もちろん、トイレの中。
「
はっきり言ってしまおう。かけ声なんていらない。でも二子ちゃんいわく、これがないと変身後、パワーに大きく差が出るらしいのだ。なんのパワーか知らんけど。
こうして、それぞれの特殊時空間(トイレの個室)で
スーツを脱ぎ捨て、ビジネスバッグを手放して。ジャージ上下にスポーツバッグという、「『僕たち爽やかなスポーツマンですが、何か』アピールフォーメーション」だ。ただし背中にデカデカと「SEKIKAWA」ロゴを入れてしまったため、後ろを向けば店員さんの余計な記憶を掘り起こす危険性があることに二子ちゃんは気づいていない。
僕らは再度、取引――もとい買い物を完了させた。
その後、またもトイレに消えた僕らは、今度はブレザーの制服姿へ――
せ、制服は、勘弁して。年齢的にヤバい。学ラン+セーラー服よりはマシだけど。
その後、清掃員(怪しまれない変装の定番といえばこれ)や、白衣(ポケットからのぞかせた聴診器がポイント)を経て、最後には僕と二子ちゃんで五点ずつ、計十点の袋が集まった。
「当たるかな〜……当たるといいなぁ〜」
僕の家で、二子ちゃんがワクワクした表情で袋を開け始める。
開けたとたん、甘い砂糖と栗の香り――もとい、僕たちが愛してやまない少女のあられもない姿があらわになる。
それぞれの袋から顔を出したのは、すべて同じ商品――『ミラクルスイーツ♡栗かのこ』のコンサートイベント抽選券つきCD。
ここまでくれば、もう誰の目にも明らかだろう。
僕たちが、同じCDを十枚も買い求めた理由。
そのうちの一枚でもいい。イベントのアタリを引き当てれば、これまでの涙ぐましい努力が報われるのだ。
CDなんてネットでも買えるのに、なんでわざわざ同じ店に何度も通ったか、だって?
二子ちゃん情報によると、なんでもあの店はアタリ券を数多く出しているらしい(宝くじ的な情報)。
CD十枚くらい、ひとりでいっぺんに買えばいいじゃん、だって?
彼女をそこらの厚顔無恥なオタクどもと一緒にしてもらっては困る。
誰にだって、たったひとつのアニメグッズを買うのに周囲の視線を気にしながら風のように会計を済ませる、ピュアな青春時代があったはず。
二子ちゃんは、今でも現役でピュアピュアなのだ。
変装する方がよっぽど恥ずかしい、などというツッコミは受け付けない。断じて。
「当たったぁーー!!」
栗かの子にかける、彼女のピュアな愛情が花開いた瞬間だった。
この笑顔を見るためなら、僕はこれからもどんな苦難にも立ち向かっていける。
これからも、ずっと。
あ、一応犯罪にならない範囲でね?
(そのうち警官コスに突入しそうだったので、危なかったです)
🌰🌰🌰🌰🌰
『イベントには栗かの子とイケメン王子・マロングラッセのコスプレで行きました』
<終>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます