第6話 ネットニュースの写真

校長室へ案内してもらう途中、山野かイジメられていた学生に名を聞くと、上原うえはら慎二しんじだと教えてくれた。

3年の文系クラスの学生で、イジメていた相手も同じクラスの学生だと言うことも分かった。

そこで山野は更に踏み込んで、イジメられている理由も軽く聞いてみた。

言いたくなければスルーすると言う感じで。

すると上原は、少し躊躇とまどいはしたが、教えてくれた。

自分がバカだからだと・・・・。


成績が全くダメらしい。

いつも学年の下位にいて、今回の3年生への進級も危うく留年するところだった。

毎日登校して一所懸命に勉強しているのに、こんな成績じゃイジメられて当然だと自虐的に言っていた。


「さすがに負け犬だな。」

「えっ!?」


急に山野が辛辣な言葉を口にしたので、上原は驚いた。

見た目と違って優しいおじさんだと思っていたのが、見た目通りのキツイ一言だったからだ。



「負け犬根性が骨の髄まで染み付いてるなって、言ったんだよ。」


成績とイジメられることに、合理的な関係性は無い。

それを強引に結び付けて、自分自身で諦めモードに入っている。

今の若い子に多いタイプだと思ったら、山野は無性に腹が立って、ついつい言い過ぎてしまった。

そこからは、上原は何も喋らなくなった。

山野自身も気まずくなって、何も問い掛けなかった。



校長室は、本校舎の2階、職員室の隣にあった。

上原は山野を2階の階段まで案内してくれたが、そこで分かれた。

多分、今の砂まみれの格好を教師たちに見られたくなかったのだろうと山野は思った。



山野は教えられたまま階段を右に曲がると、校長室の前には、さっき逃げた女性と、数人の大人たちが人垣を作りながら待ち構えていた。

手に、武器になりそうなモノを持って・・・。

本人たちは真剣なのかもしれないが、傍目はためからすれば、明らかに滑稽こっけいな姿だった。



「ここは学業をする場です。あなた方のような人が、足を踏み入れて良い場所ではありません!」

「はぁっ!?」


思わず山野は大きな声で言ってしまった。

上原と言う学生の辛気臭い話で苛立っていたところに、さっき逃げ出した女性から訳がわからないことを言われたのだからムリは無い。

すると、前に出ていた女性は、山野の声にビビったらしく、人垣の後ろに下がって初老の男性の陰に隠れた。



「教頭先生、お願いします。」

「えっ、ぼっ、ぼく!?」


教頭先生と言われた男が代わりに押し出され、山野の前に出てきた。

すると、山野の目の前に自分のスマホのネットニュースの写真を掲げて言った。


「あなたがどう言う人間なのか分かっているんだ。大人しく帰らないと、警察呼びますよ!!」


震える声でそう言うと、教頭はスマホをもう一度山野の目の前に差し出してから、人垣の裏に隠れた。

山野は、確かに自分が写っていたネットニュースを見ていた。



- だから、なんだよ!? -


山野はそう思ってしまったところが、間違いのもとだった。

彼らが勘違いしていることに、気づかなかったのだ。


「これがどうしたんだよっ!?」

「それ、あなたでしょ。」


後ろに隠れていたさっきの女性が顔をひょこり出しながら言った。


「そうだよ。かなり前のオレだ。だから、なんだよっ!?」

「あっ、自分で認めた。やっぱり暴力団なんだ!!」

「はぁ?誰が暴力団なんだよっ!?」

「あなたよ、あなた。今認めたじゃ無い!!」

「違う、これはオレだけど、暴力団じゃない。」

「この期に及んで言い逃れですか!?男らしくない。」

「言い逃れじゃない。オレは暴力団じゃない。」

「じゃ、どうして写真にデカデカと写ってるんですか?」

「オレは、300、元警官なの!」

「そんな丸わかりの嘘を言わないで下さい。この格好のどこが警官なんですか!?ここに写ってるの、みんな暴力団でしょ。」

「違う!この組長以外はみんな警官だ!!」

「ウソッ!」


そう言われて、山野は虚しくなった。

その女性だけでなく、そこに居た全員の目が完全に自分の言葉を疑っていることを示していたからだ。


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