第4話 コンサルタント

今の金融資産を全て現金化し、税金を引かれても、山野には使い切れないほどの現金が手元に残る。

年間1千万円使い続けても、130年以上生活出来るほどだ。

警官を辞めた時は、この資産で悠々自適な生活をしようと思っていた。

が、1ヶ月もすると、憧れていた自由に飽きる。

元々、他人の役に立つことだけを考えて生きて来たのだから、自分の為に生きると言う選択肢は頭の中に無かったのだ。



そこで山野は、警察官としての経験と、投資の研究から派生したコンサルタント業をやろうと思いついた。

一生困らないだけの資産はある。

ならば、困っている、行き詰まっている人たちに安くで、いや場合によっては無償でコンサルをしてあげようと考えたのだ。



が、この山野の考えは浅はかと言う以外の何者でも無い。

コンサルティングと言うものを、知らなさ過ぎたのだ。

この業界は、価格と効果が連動していると考えられている。

安かろう、悪かろうが、この世界の常識だ。

だから山野には、仕事は全く来なかった。

八方手を尽くしたが、声すら掛からなかった。

そんな時に助けてくれたのが、昨日飲んでいた先輩だった。



山野自身、自らを高める為に、色々とセミナーに参加していた。

その中の講師と、タマタマ打ち解け、タマタマ昵懇になった。

結果、コンサル業の先輩、後輩の関係になり、今回の案件に辿り着いたのだった。



山野にとっては、初めての案件であり、気合いが入っていた。

スーツをバチっと決めて、7203トヨタ自動車のグランエースに乗って、待ち合わせ先の学校に向かった。



「あのぉ〜。」


中庭にある駐車場と思しきところに愛車のグランエースを止めて降りると、後ろから声を掛けられた。


「はい?」


山野は返事しながら振り向くと、そこには驚きの表情をした女性が身構えていた。

年のころは25~6歳。

かなりの美人だと山野は思った。


「ほっ、ほっ、本校にどっ、どういったご用件でしょうか?」


話し方から、女性の警戒心がMAXだと言うことが手に取るように分かった。

山野はなぜ警戒されているのか分からなかったから、まずは親近感を出す為に、砕けた口調で尋ねた。


「校長先生いるかい!?」

「こっ、こうちょうですか?」


更に女性の顔は、強張こわばった。

胸のあたりにある教科書を持つ手に力が入ったのが分かった。


「そう、ちょっと早いが15時に来てくれと言われている。」


言いながら、山野は気付いた。

日除けの為にサングラスをかけていたことを・・・。

だから怖がられているのだろうと思った。

そこで、さりげなくサングラスを取り、胸ポケットに掛けた。

すると彼女は、あろうことか山野の顔を見るなり、あとずさった。

- なんだ・・・・!? -



山野には、初対面の相手から、ここまで嫌われる心当たりは無い。

が、彼女には、心当たりが多分にあった。

と言うのも、昨日職員室の中で回し見たネットニュースの記事に、某暴力団の組長が出所直後に射殺されたと言うものが出ていた。

ニュースには、その組長が逮捕されている時の写真が載っていたのだが、そこには組長以外にも見るからにガラが悪そうな男が大きく写り込んでいたのだ。

そして、その男にそっくりな男が、目の前にいる。



当然、山野は警察官として、組長を逮捕する側の一員だった。

その姿を、タマタマ報道カメラマンに撮られたのだ。

が、素人目には、山野の姿が、組長を守る組員の姿に見えた。

だから、彼女は勘違いしたのだが、まさか昨日見た暴力団員が自分の目の前に現れるなんて、驚きを通り越して、恐怖以外のなにものでも無かった。



「あのぉ〜。」


山野が一歩近づくと、彼女は一歩後ずさる。

数歩近づくと、数歩後ずさる。

たまらず、山野が一気に間合いを詰めると、彼女は半泣きの表情をしながら走って逃げてしまった。

その場に取り残された山野は、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった。



- 仕方ない、自分で探すか!? -

山野は、そう思って頭を掻きながら歩き出そうとしたら、遠くから言い争うような声が聞こえて来た。

争いはメシの種、もとい、つい骨の髄まで染み込んだ警察官の癖で、声がする方に見当を付けて、歩き出した。

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