華の山
よろずの
第1話 薩摩ごかもん
「
「わぁ〜、
「ヨッ!!」
「
四条烏丸にある3073DDHDの『薩摩ごかもん』の一室にウラ若き乙女たちが集まっている。
27歳という彼女たちの微妙な年齢を考えれば、少し言い過ぎなのかもしれないが・・・。
白熱灯の黄色みがかった暖かくて優しい光が、室内を照らしている。
心持ち薄暗く設定されている光量が、雰囲気を醸し出していた。
彼女たちは、大学時代のサークルのOGだ。
久しぶりに、東京に就職していた
「どう?調子は!?」
「大変よぉ〜、アメリカが中国制裁なんかするから、半導体が足りなくて、ウチの工場ストップなのよ!」
「うちは、宮城工場が地震の影響で、停止中なの。再開まで、あと半月だって!その点、茜は良いよね。公務員だし。」
「あんたねぇ〜、代わって欲しいわ。給料が安定していると言うのは、言い換えたらやっても報われないと言う意味なのよ。毎日、終電で帰ることになるなんて、想像もしてなかったわ!!」
最初のビールを一気に飲み干し、2杯目のビールも半ばまで減らすと、体内のアルコール濃度が上昇し始める。
アルコールは血管を押し広げるだけでなく、頬を紅潮させ、舌の動きを滑らかにする。
普段の不平不満が一気に吹き出し、ものの30分も経たない間に、感じの良い部屋は罵詈雑言の暗黒の奈落の底へと落ちて行った。
「公務員と言えば、
「あたしは
「今、何やってるの?」
「生活保護のケースワーカー。」
「えーっ、それは大変じゃない!?」
「大変だよぉ〜。今日も、飲んだくれのヤサグレを相手してたんだから。」
そう言いながら、
掘りごたつ式の座敷席であることが、多少なりとも彼女らの女性としての意識を削ぎ落としているようだ。
似ている芸能人としてよく言われるのが野々村花音や岡田結実で、彼女らの濃い目の顔を良い意味で薄くした感じらしい。
その度に、『あたしはお笑い芸人か!?』と軽く突っ込んで笑いを取るのが華の持ちネタだ。
そんな時、いつも
『ほら、今突っ込んだってことは、自覚があるんでしょ。』と言う感じに。。。
その祐香も、今日はシッカリと参加している。
華の斜め左前の席で、茜と談笑している。
「ほら、再来年度から家庭科で資産形成の授業が始まるじゃない!?」
「あっ、それね。あれは、内閣主導で入れられたのよ。」
「開始までまだ1年あるのに、うちじゃ大騒ぎなのよね。英語のリスニングや、パソコンの授業が組み込まれた時みたいに。」
「あちゃ〜、やっぱり現場はそうなるよね。」
「更に困ったことに、うちの校長なんか、1年早く資産形成の授業を組み込もうと、息巻いてるのよ。」
「えっ?どうして?授業は単なる家庭科の中の一部だし、入試には関係ないと思うけど。」
「そう、そうでしょ。そこが問題なのよ。自分が投資をやっているからって、それをウチの売りにしようと考えてるのよ。」
「マジ?」
「マジ、マジ。英語やパソコンと同列に投資を考えてるのよ。」
そういえば、茜は文科省の役人で、祐香は高校の英語の教師になっているのを華は思い出していた。
自分だけでなく、どんな仕事も大変だなぁ〜と、その話は半ば聞き流されていた。
さて、この暗黒の世界に落ちそうになっている個室の隣では、スーツ姿の男2人がサシでのんでいた。
「先輩、ありがとうございます!!」
「いや、いや。オレも大きな案件を抱えていて余力がなかったんで断るつもりでいたんだよ。でも、お前が仕事を探しているのを思い出してどうかと思ってな。」
「ありがとうございます。さ、さっ、今日はご馳走させて貰いますから、ドンドン飲み食いして下さい。」
「お前には、頼まれても遠慮しないよ。しっかし、お前もモノ好きだなぁ〜。一生遊んでも使い切れない資産があるのに、わざわざ仕事をやるんだもんなぁ〜。」
そう言って、先輩と呼ばれる細身の初老の男は、コップを前に差し出した。
「まぁ、自分のライフワークというか、これからの日本を考えると、少しでも自分が出来ることをやりたいと思いまして・・・。」
対面に座っているアラサーと思われるガタイの良い男は、そう言ってビールを注いだ。
「ところでお前の資産は幾らになったんだ?」
「そうですね、20億ほどですかね。」
「また増えてるのか!?」
「まぁ、順調ですね。持ったままなだけですけど。」
「オレのも運用してくれよ。前から頼んでるだろ!?」
「前から言ってますけど、他人のはやらないですよ。自分でヤル気になったら、いつでも声掛けて下さい。先輩には、無料で教えさせて貰いますよ。」
そう若い男は、ゆっくり首を横に振りながら答えた。
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