第5話 絵心の無い奴の戯言

 見えている世界が人と違う気がしたのは何時からだろう……


 生が辛い、苦しいと思いながらも必死に生にしがみ付く己に嫌悪感さえ覚える。


 自分より幸福な人間を羨やんだところでしかたがない。


 自分より不幸な人間を敬ったところで何も変わらない。


 自分の幸福度と不幸度を天秤に架けた所で僕の運命は何も変わらない。


 いくら心を閉ざした所で何も変わりはしない。



 静寂な世界……色の無い世界……そんな世界に色をつけるなら、


 皆が皆……目に映る綺麗な景色をそのまま綺麗に彩るだろう。


 また……それ以上に綺麗に世界を描いて彩るのだろう。


 何を見ていたのだろう……


 どんな世界を見ていたのだろう……


 僕の描いた世界の色は、嘘のように常識からかけ離れていて……


 一度汚した世界は、その上から慌てて周りを真似て色を塗った所でどんどんきたなくよごれて見えて……


 僕は、そんな自分で描いたモノを恥じるように背中に隠し、誰かの描いたその世界に依存する。


 ぐちゃぐちゃな色を彩った僕の両手は汚れていて、そんな世界を裸足で歩いた僕の素足も汚れきっている。


 そんな素足で君の世界に住み着いた僕は……君の世界でどう描かれている?


 僕は君の綺麗な世界を汚しているんじゃないか?


 なんなら、その筆で一思いにその世界から僕を消してくれ……

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