第八話

 8:


 燕! どこや!

 ばたばたと園内を走る龍之介。

 なんだなんだと視線を集めているが(子供に)わき目も振らず燕の姿を探す。

 ここにはいない。

 また走り出す。


 と――


『ご来場のお客様にお知らせします。飛高龍之介様。飛高龍之介様――』


 園内の放送で名前を呼ばれ、


『迷子になっておられる龍之介様。迷子センターにてお連れ様がお待ちです』


 どがっしゃあんっ!


 龍之介が走っている中、足を滑らせてすっ転び、さらに園内にあったゴミ箱へ突っ込んだ。


『お早めにお戻りください』

「う、おおお――」


 がらがらと、空き缶やら紙くずやらにまみれてがばり、と起き上がる龍之介。


「俺が迷子になっとるし!」



「こんな対応は、初めてです……」

「申し訳ありません」


 妙な園内放送をさせてしまったスタッフさんに、深々と頭を下げる。

 実際やってみたものの、


 スタッフの女性の方は「え……」と戸惑わせてしまうし、なにより恥ずかしかった。


 とりあえず、迷子センターの出入り口の前で、兄を待つ。


「まったくもう……」


 ついついため息が出る。


「なにやってるんだか」

「ですねぇ……」


 横に並んで、腕を組んでいる秦太郎さん。


 その奥では、番太さんと源之助さんがそろって、ジュースのストローを咥えていた。


 いらいら……。

 いらいらいら……。

 遅い。


 考えてみれば、年相応にそぐわない遊園地だし、お化け屋敷ではからかわれるし、

 子供が乗るメリーゴーランドに乗せられそうになるし、

 迷路でさらに迷わされるし、迷子になるし。


「ほんとーうにもう!」



 秦太郎を挟んで、燕から離れている番太と源之助がぼそぼそと。

「姐さんも、意外と辛抱弱いな」

「そうか?」

「やっぱり似てるよな?」

「いや、龍のアニキだから、かもしれんぜ」

「……かもしれんなぁ」


 ほどなくして、ばたばたと靴音を鳴らし、龍之介がものすごい勢いでやってくる。

 靴底をすり減らせて、燕の前で急ブレーキ。


「誰が迷子だ!」


「それはおにいでしょおおおおおおおおお!」


 いらいら顔の燕が、兄龍之介に怒鳴った。

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