第五話

 5:


 先に手を出したら、出した方が絶対に悪いなんぞ納得できん。


 仲間作って直接手を出さずに嫌がらせをする奴なんぞ、いくらでもおるぞ。


 卑怯さで世渡りなんぞ腹立つわ!


 子供捨ててまで幸せになりたいだなんぞ許せんわ!


 やり直す以前に、まだ何もできていなければやってもいない子供やぞ!


 理不尽や!


 生まれてきた意味を問うのは今さらか?

 落ちこぼれですまんかったの!


 いくらクズかて、真面目に思う事もあるんや。


 どんなに馬鹿でも、馬鹿な頭なりに考える事だってあるんや。


 負けたくないって、どんなに弱くても劣っててもそう思うんや!


 周りより強く生きなければ、周りと同じになれんとか何やねん!


 「頑張れ」とか、んな中身の無い言葉だけ投げられても、


 ……そんなもん、いらんねや。


 精神論だけで現実は出来てへん

 どうあっても抗えない現実があるんや


 慰めもいらん、同情はムカつく

 その場しのぎの言葉じゃ余計にイラつく


 ただ負けたくないだけや

 たったそれだけやで

 

 ……ああ、だから

 こんなんだから、俺は『悪』なんや――


 俺がお前を見つけるまで、どうしていたかなんて

 どうでもいい


 お前には関係の無い事だ

 俺がどんな思いでいても、どんなになっても

 俺がお前を守る


 絶対に……守る!

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――


「よーう、馬鹿息子。来てやったぜ」


 廃工場。


 中では先日の暴走族たちが集まっていて、龍之介の登場に――

 ざっと一直線の道が出来た。


 龍之介の正面に上等な毛皮を着込んだ、金髪逆毛のピアス男がいる。

 元伊佐美組のひとり息子――伊佐美勝彦。


「馬鹿はてめーだろ、クズ野郎が」


 苦々しく顔を歪めた勝彦。

 その顔を挑発を前にして、龍之介は――肩をすくめた。


「まぁそうだな」


 素直に肯定した龍之介。しかし――


「お互い様だ。馬鹿息子」


 龍之介は目を見開いて、睨み返した。


「なん――」


「おい! 雑魚共!」


 勝彦の言い返しをかき消して、龍之介が先に暴走族集団に声を掛けた。


「帰ってええで。お前ら十分に痛い目みたやろ?」


 龍之介の、呼びかけに似た声が響く。


「雑魚の相手をする気はねぇ。今なら見逃してやるけ、さっさと俺の前から消えな」


 動揺とざわつきを見せる先日の暴走族たち。


「今だけや……今逃げるいうんなら、また叩き潰される事も無いで。ヤクザもんの相手なんて、本当はしたくないやろ?」


 まだ、押しが足りない様子。


「助けちゃる言うてんねや。逃げとくなら今やで、事が始まれば出来へん……さっさと行きーや」


 数拍の静寂の後で、


 三十人もいた、包帯やらギブスだらけの暴走族の集団が、一斉に龍之介の脇をすり抜けて逃げて行く。


 特攻服を着た人間の川が流れ切った時、龍之介ただ一人が残っていた。


 たった一人の龍之介の向かいには、まだ残っていた暴走族が数人(それぞれが悪態をついている)伊佐美勝彦の子分と、勝彦本人の計九人が向かい合っていた。


 不満を露にした視線……隠す気も無い十人弱の視線が、龍之介へ集中する。


「よっと」


 足元に転がっていた鉄パイプを、龍之介は拾い上げた。


 逃げた暴走族の一人がおそらく、負い目から足元に転がして行ってくれたのだろう。すれ違った数人から「すまん」だの「悪かった」だのと、挙句には「この借りは返す」だのとカッコつけた小声で囁かれた。


 ――借り返す前に俺の味方につけやっての。


 心の中で苦笑する。

 鉄パイプを肩に担いで。


 無言で怒りと憎しみを溜め込んだ、伊佐美の馬鹿ヅラを見る。


 ――踊る阿呆に、見る阿呆、同じアホなら。


「んじゃ、始めよーかねぇ」


 にやりと口元を横に伸ばして、龍之介。

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