第三十九話 花の匂い。

 「お邪魔します。」


 優しげに笑う冴月冴月ママに言われたままリビングに向かう。

冴月の家はお母さんのセンスなのか白い壁に明るい色の花のカーテン、それから本物の綺麗な花。

冴月も実は可愛いものが好きだし、お母さん譲りなのかもしれない。


 「そこに座って。つむぎ君、紅茶とコーヒーのどっちがいい?」


 「あ、紅茶でお願いします。ありがとうございます。」


 「紅茶にも沢山種類があるんだけど、好みとかあったりする?」


 「いや、特にはないです。」


 「じゃあ私の好きな香りにしとくね。」


 「あ、はい。」


 家で飲む紅茶って一番フツーの紅茶以外にもあるんだ、そもそも紅茶ってどんな種類があるんだろう。

なんか色んなところがうちと違っておしゃれだな。

美人だしスタイルいいしおしゃれだし、冴月のお父さんはこんな人を射止められて幸せだろうな。


 「はい、お待たせしました。」


 「ありがとうございます、お母さん。」


 柔らかい笑顔を湛えながらケーキと紅茶をくれた。


 「いつまでもそんな他人行儀な呼ばれ方だと、おばさん悲しいな。」


 「え、いやでも……、すみませんどんな呼び方をすればいいですか。」


 この家には何度か来ただけだし、他人行儀になるのは当然だと思うけど。

にしても娘の同級生とそこまで親しくしようとするもんなのか?

ちょっと変にも感じるけど、天然っぽい人だしこの人なりの優しさなのかもしれない。


 「あ、そっかそっか。おばさんね桔梗 千智ききょう ちさとって名前なの、下の名前で呼んでくれたら嬉しいな。」


 「分かりました、ち、千智さん。」


 「うんうん、千智さんだよ紬君。」


 なんかこのやりとりムズムズする。


 「ところでさ、紬君は好きな人とかいるの?」


 ケーキと紅茶をいただいていると千智さんがまた優しげな声で質問を投げかけてきた。

やっぱりこんな感じの近い距離感の人なんだろうな。


 「彼女います。」


 「へぇー、どんな子か聞いてもいい?」


 千智さんがいきなり腕を抱き寄せてきた。

胸が当たってるし、顔が近づいて柔らかい花のような甘い匂いが鼻をくすぐる。

こんな綺麗な人にこんな事されると正直理性的でいられなくなりそう。


 「あの、近くないですか。」


 「んー、何がかな?」


 一層距離が近くなる。


 「こ、困ります。」


 「彼女さんとどっちが良いか、試してみない?」


 千智さんの手が下に伸びて顔はゆっくり近づけ……。


 ーートントントントン。


 「ママー、今日のご飯なーに?」


 突然階段を降りる軽快な音と冴月の聞こえてきて、千智さんは急いで離れた。


 「残念、また今度ね。」


 今度と言われても困る。


 「ママいないのー……、は!?紬?なんで?え、ちょっと待って、ちょっと待って、今ヤバイ。」


 「お邪魔してます。」


 「ちょっと本当に今無理だから、ちょっと待ってて、動かないで。」


 そう言うと階段を走って上がって行ってしまった。

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