第二十八話 疑いの目。

 放課後、僕と冴月さつきはバンドの練習までの時間を教室の窓際の席に座って過ごしている。


 「今日も疲れたな、古典わからん。」


 「つむぎは午後からしか受けてないだろー、私たちは朝っぱらからずっと受けてんだよ。」


 「確かに。」


 でも短時間でも疲れるものは疲れる。


 「あれ、でも冴月授業中寝てなかった?受験生なのに。」


 「紬と勉強すれば大丈夫だから。」


 「えぇ……。」


 まだ五月の初めだからあんまり実感ないけど来年の二月には本番の試験がある。

志望校どうしよう、やりたいこととかないし。

淡藤あわふじも文系の大学だし相談してみようかな。


 「あ、そう言えば昨日の夜なんかしてたの?紬はだらしないけどそんなに遅刻とかないじゃん。」


 「んー?電話してた。」


 「遅くまで?誰としてたの?」


 あー、付き合ってること言ってないけど、まあ冴月にならいいか。


 「彼女さんとよ。」


 「ウケる、童貞くんの強がりはいいんだって。本当は誰としてたんだよ?」


 「いやー、彼女だね。いるね、ほんとに。」


 「は!?まじ?なんで?嘘でしょ、騙そうとしてないか?」


 こいつめちゃくちゃ疑うじゃん、なんでだ?

……まあ信じられなくても仕方ないか、これまでずっと恋愛の話は一切してこなかったし。


 「付き合い始めたのはついこの間ですぅ。幼馴染の大学生の人。」


 「あぁ、マジなんだ。あの紬にねぇ……。そっか、よかったじゃん。初めてでしょ?彼女できんの。おめでとう。」


 「いやー、ありがとうございます。」


 軽く貶された気もしなくもないけど、めっちゃ馬鹿にされると思ってたから意外だな。


 「で?」


 ん?で?ってなんだ?


 「なに?」


 「だーかーらー、どんな感じの子なのって聞いてんの!」


 なんだこいつ勢いすごいな。


 「どんな感じって言われてもなぁ、まあめっちゃ可愛い。お淑やかとまでは言わないけど割と清楚系な感じかな?」


 「あー清楚、なるほど。他は?」


 「頭良いし、運動してるからスタイルも良いな。こうして言っていくとめっちゃハイスペックだな。」


 「運動できてスタイル抜群ね、やっぱ妄想じゃないの?写真見せてよ。」


 あれ?やっぱり煽られてるのかな?僕は友達に煽られるとすーぐ怒っちゃうぞぉ。


 「写真はまだ撮ってないな、本人もSNSとか投稿してないし。……あ、れんがツーショット投稿してたはず。ちょい待ち。」


 妹のSNSの写真を漁る兄てなんかちょっと気持ち悪いな。


 「はいこれ。」


 「え!?は?くそ可愛いじゃねえかよ!!!嘘……。」


 まだ嘘とか言ってる。

どんだけ信用ないんだ僕は。


 「ほんとだって、この間も俺の部屋でいっ」


 「あーもう練習始まるわ、行こう。」


 「んあ?ほんとだ、いくか。」


 まあこんだけ言ってたらこいつも信じただろう。

妄想とか言われたのはちょっとショックだったけどね!

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