第十六話 慈悲の心。

 翌朝、僕は新入生歓迎ライブで演奏する曲のの練習のために朝からギターを背負って自転車を走らせていた。

春休みが明けてようやく春らしい陽気が戻ってきたみたいで、日の光を少し暑く感じた。


 部の活動場所である視聴覚室の厚い扉を開けると、他のバンドメンバーは全員揃っていた。


 「つむぎ、遅いぞ、もう時間になっちゃうじゃん。」

 「まだ時間じゃないだろ。時間前に来ることは美徳であって義務じゃないんだよ。」


 着いたそばから冴月さつきが急かしてくる。

久々の合わせ練習にワクワクしてるのか、元気だな。


 「おはよう、久しぶりー。」

 「おー、おはよ。」


 もう練習の準備を済ませた凛音りんねは見慣れないベースを下げていた。


 「あれ、新しいやつ買ったの?いいじゃん。色渋い。」

 「でしょ〜、気に入ってる。」


 僕もちょっと急ぐか。

さっきからうちのドラマーの視線が痛い。

我がバンドが誇る生真面目クールお淑やか美少女JKドラマーという設定モリモリの人物、吉野海よしの まりん

名前はちょっぴりキラキラしていて、本人はあまり名前を気に入っていないようで、バンドを組んだ時にあだ名を『うみ』にしようと提案したところ、大変御喜びになられていた。


 「海お待たせ、準備できた。」

 「まあそこまで焦るような曲もないし、いいよ。」

 「TY」

 「できた?オッケー?よーし始めよう。」


 元気一杯でニッコニコの冴月の号令でヴォリュームのノブを右に回した。





 「やっぱ久々のバンド楽しー!あ”ーもう最高、興奮した。」

 「女子よ、もっと慎みを持つのです。」

 「いやでも本当に楽しいよ、海ちゃんもそうだよね?」


 凛音はなんか、爽やかだなー、ちゃん付けがいいのかな。


 「うん。楽しかった。」


 海もご満悦でよかった。

僕も家で大きい音を出すことができないから気持ちがいい。


 「そういえば凛音春休み中に新しい女できた?」

 「紬、そんな言い方しないで。」

 「いいんだよ海ちゃん、紬も冗談だから。」


 この間冴月と話して気になっていたことを聞いてみた。


 「えーっとねー実は別れたって言った子と復縁しました。」

 「は?なんで。」

 「いやー、あの後ちょっとしたら連絡きてさ、愛を確かめるためだったんだって泣かれちゃってさ、可愛いなーって。」


 こいつ……、メンヘラ女子に好かれる素質の全てを持っていそうだな。


 「冴月、新しくはないけど彼女はできてたね。」

 「うん。でも復縁は新しいデータ。」


 こうして我々はは新たな研究データを手に入れることに成功した。

でも個人的な見解を言わせて貰えば、こうやって自分勝手な理由で人を振り回す人間は結局人のために何もできないと思う。

凛音はもう少し自分のためを考えた方がいい気がする。

僕はこういう恋愛はしないようにしよう。

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