幕間2 そのころ地球では(1)
これは葵が地球で死んでしまった少し後の物語。
―――*―――*―――
「何で死んじゃったの?葵兄・・・ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃん。何で・・・なんでよ・・・」
彼の棺の前で夏希ちゃんが泣き崩れている。できることなら、私も一緒に泣き崩れたかった。でも、それはできない。私は彼と約束したから。もし、万が一にも彼が早死にしてしまったら私が代わりに夏希ちゃんと共に過ごすって言う約束。だから、私は夏希ちゃんに頼ってもらえるような姉のような存在でありたい。そのためにも私はまだ泣かない。夏希ちゃんをしっかりと支えるために・・・
あのとき、そう誓ったのに、私はそれを守れそうにない。
今は葵の葬式の帰り道。私はただ一人て夜道をトボトボと歩く。いつもは家に帰るのが待ち遠しくて帰り道も早歩きで帰っているのに今は、いや、あの日からは何も思わない。私にとって葵の存在はそれほどに大きかったようだ。
『本当に大切なものは失ってからその大切さに気付く』
言葉としては知っていたけれど、今日ほどこの言葉の真の意味を痛感した日はこれまでもこれからも、もう一度も来ないだろう。
なぜあのとき彼からの誘いを断ってしまったのか、なぜあのとき私は遊びに誘わなかったのか。あの日に会う約束をして取り消してしまっただけにそのショックは大きい。私が約束を取り消さなければ彼は死なずに済んだのではないか、と自責の念が私の中で渦を巻く。今更考えても彼が戻ってこないことはわかっている。それでも、私の頭の中からそれが消えることはない。
それが悪かったのだろう。突然目の前が明るくなる。続いて聞こえたのはクラクションの爆音。ああ、私はここで死ぬんだな。そう思った。だが、なぜだろうか。私の中で湧くのは後悔でも恐怖でもない。
「ああ、葵。どうやら私もそっちにいくことになりそうだ」
自らがようやく気づいた大切な人のもとへと行けるという、喜びにも似た温かい気持ちであった。
―――*―――*―――
「何で死んじゃったの?葵兄・・・ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃん。何で・・・なんでよ・・・」
つい先日、私の兄である葵が亡くなった。その時、初めて葵兄が義兄であることを知った。本人も知らなかったらしいが葵兄は母のお姉さん、つまり、私の叔母にあたる人の子供で父親は生まれる直前に事故で亡くなり、母親は葵兄を産んですぐに息を引き取ったそうだ。そして、天涯孤独の身となった葵兄を私の両親が引き取った。その後、母は私を妊娠して私たちは兄妹として一緒に過ごしてきたのである。
私が葵兄が義理の兄であると聞いたとき最初に思ったのはよかった、である。はっきり言って私は葵兄に恋をしていた。いわゆる禁断の恋というものだ。だが、それが義理の兄妹だったのならば、話は異なる。なんの障害もなく私が葵兄に恋していたことを口に出せる。とはいえ、葵兄はもうここにはいないのだが。
そして、その時が来る。
「えっ」
葬式が終わって改めて葵兄の部屋に入ったら、床が強烈に光って私は気を失ってしまった。
三人が再会するまであと少し・・・
―――*―――*―――
2021/12/20
すこし言い回しを修正
旧:あの日に会う約束をして取り消しただけに
新:あの日に会う約束をして取り消してしまっただけに
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