第15話


 一週間後、貴族の老婦人にアイテムバックを納品。

 もちろん中にはストレージ内にあった息子さんのボロボロになった慰留品と、冒険者証、粉々だけど遺骨が残っていたので小壷(こつぼ)に入れて渡した。


 「これ以上の苦しみはいりませんよ」


 そう伝えると笑いながら号泣して、晴れやかな顔で我が子を抱きなが帰って行った。

 ずっと俺たちに土下座をして感謝と共に涙を流す老執事に追加の料金は要らないことと、これ以上の捜査はやめた方がいいと伝えた。


 「む、家族の愛はどこでも同じであるな」

 声を震わせて俯(うつむ)くロックマンさんバカ親父。たぶんこれは一生つづく痛みなんだろう。


 この一週間はロックマンさんバカ親父を鍛える事に費やした。接近戦を主に生きてきたからスクロールで今回に必要な色々なスキルを取得・練習をさせて準備が完了した。


 

 「さて親父そろそろな場所だが、いいかい?」

 「うむ、相手を捉(とら)えた。」


 俺たちはストレージにあった古代人工遺物アーティファクト魔導二輪車オートバイで疾走していた。

 地球で言う所のガソリンに該当する魔導燃料クリスタルをタンクに入れたら走るという便利道具だ。

 


 2人乗りの大型ビッグスクーターのようなデザインで2人乗りができる最高!

 電気自動車EVのように静かに走ってくれるから影でコソコソ動きたい今回なんかだとホント便利。


 は!いかんいかん!異世界なのに地球っぽい物を使うとウキウキするねあるあるだわ。



 今回は暗殺という手段をとる事にロックマンさんバカ親父とは合意した。

 リリアノールさんと眠りたいとロックマンさんバカ親父が言い出した辺りでヤバさを感じて、鬱になる前に何度も説得してスキル訓練を詰め込み忙しさで逸らした。


 今回ロックマンさんバカ親父に使ったのは!


 スキル[遠隔視認][10]

    遠く離れた相手を感知して見る事が出来る。

    話した相手にしか使用出来ない。

    距離制限は150キロメートル


    [神の中(あたり)][極]

    見える範囲の相手に矢を射る事が出来る。

    所持する武器により射程の範囲が変化する。


    [弓の技術][極]

    弓を使う時に補助の役割を果たす。



 えっとかなりエグい能力(アビリティ)をロックマンさんバカ親父にあげたと思う。

 接近戦が得意で、離れていても殺る事ができる暗殺マシーンをワシは育ててしまったのじゃ!


 あ、ちなみにリリアノールさんを殺した貴族であるサイモンはロックマンさんバカ親父の知り合いだと言う。

 「むぅ、爵位を得てまで情報を得ようと動きまくっていた事がこんな所で役に立つとはな。」と空笑いをするのは反則だと思う。



 逃げた王国に戻るのは俺は正直イヤだが友人の為に同行した。

 スクーターの2人乗りが楽しかったからもある。

 身長が足りないからリアシートしか無理なんだもん。


 さて、射程範囲まで大型ビッグスクーターを走らせ、ここは王国貴族サイモン子爵の領都の郊外地。

 胸まである麦のような畑に隠れる。


 「1人でやれる?」

 「む、ヒロキよ安心してくれ」

 「じゃあ最終確認な、暗殺は遠くから見つからず達成後は速やかに逃走」


 俺との約束にコクリと頷いてロックマンさんバカ親父は[隠密]のスキルを発動して闇夜に溶けた。


 俺はこの場で待機だ。

 復讐は儀式みたいなもんだ、これ以上の踏み込みはロックマンさんバカ親父に失礼だろう。



 しかし…… 暗殺がエグイな異世界は……

 いつ狙われてしまうか分からないから防御に特化したスキルを探そうと麦畑の中で胡座(あぐら)を組んだ。


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 バサリとヒロキから借りた[影隠しのマント]を靡(なび)かさせ私は夜警の隣を通り抜ける。


 むぅ、やはりこの影隠しのマントは昔話にあるアサシンのものだろう。

 隠密だと気付かれる足音や衣擦れの音が真横でしても、兵士や猫までも私に気付かない。


 彼は全く何者なのだろうか?

 いや、そんな事はもうどうでもいい。ただの私の大切な友人だ。詮索の必要もない。


 

 私は領都に入り、まずは教会を探した。

 敵を誅するのだからリリアノールにも見ていて欲しいと思ったからだ。ヒロキには乙女か!と笑われたがね。


 市街地と富裕層の区画間に教会はあった。

 私は罰当たりだが、教会の壁を這い登りクロスが天に据えられた鐘楼(しょうろう)のアーチに立つ。


 「リリアノール…… 復讐とは馬鹿な事だと思うが許しておくれ」


 そう懺悔して遠隔視認のスキルを発動する。

 このスキルは普通・・は、ただ遠くを見るだけのスキルだ。もちろん有用なものだが、障害物を通り抜け対象をロックオンできるような壊れた物ではない。

 熟練度などヒロキが鑑定を教えるまで知らなかったが…… 遠隔視認は熟練度[10]になるや世界が一変したのだ。


 「む、夜明けまでに仕上げなければ」


 考えていても仕方なし。


 発動した遠隔視認をサイモンに向けるように意識する。

 対象が範囲内にいれば自動的にその対象を俯瞰して見る事が出来るのだ…… これは[極]まで熟練度を増したらどうなるのか?


 「────── っ!」

 いた!

 

 丸々と太った体を揺らしながらワインを飲んでいるサイモンを見つけた。


 ちょうど夕餉(ゆうげ)を終えた所だろう向き合う机には貴賓も何もない食べ物のクズが撒き散らされている。

 奴(サイモン)はパーティーでは上品な振る舞いが良しとする集まりの一員だったのだが新たに幻滅をする。


 「───────────!」

 サイモンが何かを叫ぶ。

 遠隔視認は音は聞こえないが…… 部屋付きの執事とメイドに護衛が部屋から退出すると足元にある鎖を引っ張る…… なんと!


 正直、サイモンが本当にリリアノールを害したのか自信がなかった。


 だが、だが、鎖の先にはまだ小さな幼女が繋がれて…… なんて事だ。


 私は、ヒロキから借り受けた[龍舌弓]を引く。


 これは遠距離と破壊力を合わせた弓でかなり高価な物だろう。ヒロキは高レアと言っていたがさて。


 キリキリ…… と弓を引き息を吐く。

 狙いをサイモンに対して[神の中(あたり)]のスキルを発動。

 見えるなら当たるという王家なら発狂するだろうスキルだ。


 遠隔視認で見える

 神の中(あたり)で必ず当たる


 恐ろしいし、今はありがたい。


 ヒュッ…… !


 夜空に向けて射った矢は薄く光りの帯をつくる。

 勢いを殺さず角度を修正して建物や街路樹を避けて飛んで行き……


 次に弓を見たのはサイモンの頭の天辺から顎まで貫通した時だった。


 む、いかんな……

 目の前でサイモンが死んだ事で鎖に繋がれた幼女が気絶した。


 チラリと影隠しのマントを見て、ヒロキに心の中で詫びると私は闇夜の中走り出した。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 「で?」

 「む、」

 「で!!?」

 「むう、すまないヒロキ」


 全く、何で女の子を連れてきてんだこのバカ親父は!

 「いや、な、遠隔視認でサイモンに殺されかけていたのでな」


 おいおい、何のために弓を用意したんだよ。

 近くまで行くならナイフでよかったじゃねぇか!


 「あー…… ぐったりだよ!the徒労!the作戦意味なし!」

 「む、すまない」


 あー…… この親父は…… そんなに愛おしく幼女を見られたらこれ以上は言えないじゃねぇかよ。

 リリアノールさんを助けられなかったから、そういう事だろ?


 「親父、どうすんの?」

 「む、とりあえず連れて行っても」

 「いいよ!もう!どうにでもしやがれ」


 大型ビッグスクーターは走る。

 3人乗りでロームン帝国まで…… 綺麗なお姉ちゃんじゃなく筋肉大男の次は幼女かよ。

 

 「はぁ…… 」

 モテモテハーレム異世界はどうすれば実現するんだ?

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