2集

第11曲 過ぎ去ったことはしょうがないね

タイトル:「Nadir」 作 Orangestar  

ジャンル:ボカロ IA

URL:【 https://www.youtube.com/watch?v=Gpc_NZeX0ec 】

参考:あきつ さんver【 https://www.youtube.com/watch?v=VB34ap3g494 】

   イカヅチライ さんver

          【 https://www.youtube.com/watch?v=XlivHKqo378 】

曲構成:In-A-S/A-S-Ou


 「気分次第です僕は」から始まる、「アスノヨゾラ哨戒班しょうかいはん」というボカロ曲があります。この曲を始めて聞いた当時の私は中学生でした。そこからOrangestarさんの存在を知ったのですが、恐らく私が聴いてきたボカロPの中でも、いや全アーティストの中でも、かなり高位の存在です。

 平たく言えば、大ファンです。

 

 そんなOrangestarさんは私が高校三年生の頃の夏、「快晴」を最後に一度活動を休止されました。しかし、昨年の春に「Sunflower」で復活されました。コロナが広まりつつあり、家に閉じこもっていた私の、狂喜乱舞の瞬間でした。

 


 今回ご紹介するこの曲は、Orangestarさんが今年(2021年)初めて投稿した曲であり、私が今年(2021年)初めて聴いた曲でもあります。だから、ぶっちゃけ最近聞いた曲でもないのですが、遠からずということで。


①曲調と背景

 私の主観ということを念頭に置いておいてほしいのですが、この曲「DAYBREAK FRONTLINE」(以下DFL)に似てると思うんです。「DFL」は同じOrangestarさんの楽曲で、軽トラの後ろで風を浴びて笑っている少女の絵が象徴しょうちょう的な曲ですが、その如く、疾走しっそう感があります。


 一方「Nadir」は、散歩をしているような雰囲気があります。「DFL」は「アスノヨゾラ哨戒班」以来の流れを継いでおり、かなり音が多い(?)印象を受けますが、この曲の方はシンプルで、それが故に聞き心地がよいです。


 この曲を出す直前、すなわち2020年の12月の末、Orangestar さんは夏背かせさん(「Sunflower」のVocal)と結婚したことをTwitterで報告しています。本当におめでとうございます。

 この事実を意識して聴くと、歌詞の意味が見えてきます。もちろん、そういった背景を考慮せず、新年の曲として聞くこともできるので、二重性を感じ取れます。



②どん底と絶頂

 「Nadir」とは、「天底」あるいは「どん底」を表す言葉です。「天底」は天文学用語ですが、いずれにしても頂点(絶頂)の対義語である「底」という意味合いが強い言葉であるのは間違いないでしょう。

 さて、二重の意味(新年と結婚)が含まれていると見るべきだとは思いますが、まずは「新年」の意味から見ましょう。


 新年という意味づけは、この曲が投稿された日が1月1日であること、Neujahr(ノイ・ヤー(ル):ドイツ語で「新年」)という言葉が使われていることから判断されます。

 一年で一番盛り上がる瞬間というのは、まあ人によりけり年によりけりでしょうが、新年になった瞬間というのは確かに一年の絶頂期といえるかもしれません。始まりが絶頂期というのは、何とも悲しいように思えるところですが、あながち間違いではないでしょう。

 

 一方、結婚という意味付けについては、PVイラストの白ベールや、先のTwitterでの報告後、初の曲であることから判断されます。

 結婚は人生の絶頂期ともいえます。残念ながらあとは下っていくだけという見方をする人もいますが、それについても間違いとは言えません。


 というように、本来的には二重の意味での「絶頂期」を歌う曲であるわけですが、この曲にOrangestar さんがつけたタイトルが「Nadir(どん底)」ということに、興味を抱かせるわけです。



③逆説的に肯定する

 単純に考えれば絶頂期ともとれるこの時間を、「どん底」と表現することは、一般的には不自然だと思います。当事者からすると怒りすら抱くかもしれません。しかし、Orangestar さんは、未来を悲観して「どん底」と言ってるわけではないだろうというのは、動画コメント欄の皆さまも、指摘するところです。

 ではなぜそんな表現をしたのか。その意図は、次の歌詞が示しているでしょう。


  下りきったらあとは上だけ見ようぜ


 この曲の一人称は「私」です。「僕」という一人称もサビに登場しますが、こちらは鍵括弧かぎかっこ内に入っているため、会話文であると取ります。

 つまりとしているわけです。

 

 どん底というタイトルではあるものの、目線は上に向かっているということがわかります。ここに②の絶頂期の意味合いを重ねてみると、一つ視野が開けてくる気がしでしょう。

 つまり、新年を迎えた後は、次の新年まで下っていくだけともとれる一年、しかし、その新年を「どん底」とすることで、「あとは上に向かって行くだけ」という意識を与えているように見えるわけです。

 これは結婚でも同じことが言えるかと。つまり以降は下がっていくだけかもしれない未来、しかしその現在を「どん底」と捉えることで下向志向の未来を打ち消すような、意識を明示していると言えます。


 

 ただ、「どん底」に甘んじる事を完全には否定しきっていないところも、なんとも人間的というか、そんな印象を抱かせます。具体的には「なんて言えたら~」のところです。現状の自分の居場所を理解したうえで、「ここで終われたならそれはそれでいいだろう」というような形です。それは次のサビである程度ていど払拭ふっしょくされるわけですが、甘んじることの完全否定というほどではないと、私は思いました。



 サビの英語の部分ですが、簡単なようで訳が難しいように思えます。

 ひょっとしたら会話文なのかもしれません。So do Iについては「私も」という意味で倒置が使われていますが、他の所は訳はできるけれどほんとにこれでいいのかと思うところです。英語に自信のある方はぜひ挑戦してみてください。




 今回は細かい歌詞には触れませんでした。短い曲ですし、というのは建前で、本当に時間がなかったからです。ただ、それは聞いてみればわかりますからね。

 「どん底」という名の希望のうたを、ぜひ聞いてみてください。

 ではまた次回の曲でお会いしましょう。蓬葉でした。


URL再掲【 https://www.youtube.com/watch?v=Gpc_NZeX0ec 】


Nadir 解釈

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