SHADOW-ZERO 最弱の最強能力者

ハイイロカラス

プロローグ:始まりの夜の記録

死屍累々。

その場を表すのに、これ程適した言葉も無かった。


「こんなもの、ですか。」


真っ赤に染まったその場所で、その人影はため息混じりに呟く。


雪のような白い肌と、その肌と同じく純白の長髪。そしてその双眸は周囲の血の海よりも鮮烈な赤。


それは、とても美しい女だった。


「天下の創世機関ジェネシスも落ちたものですね。・・・ああ、初めから地下組織でしたか。」


その声は、聞くもの全てを震わせる程に冷たい。


「う、うぅ・・・」


と、彼女の足元で男が呻く。息は絶え絶えであり、処置をしなければ遠からず死ぬことは誰の目にも明らかだった。


「む・・・まだ息がある者が居たのですね。」

「た、頼む・・・助け・・・」

「ええ、今楽にしてあげますよ。『咎の晒杭スレイブパイク』」


穏やかな声で発される死刑宣告。彼女の言葉と同時に、男の体を黒い杭が貫いた。


「ふう、雑魚ばかりとはいえ流石にこの数は疲れましたね。それになんの成果もないし。まったく、骨折り損とはこのことです。」


そう言って彼女は不満げに息を吐く。


「あの人に黙って来てしまったし、怒られないような成果が欲しいのですけど・・・」


そう言って、彼女は死体だらけのその施設を回る。


「うーん、研究データとかわからないですし・・・あの人には、素人が触ると証拠が消されたりするから機械には触るなと言われてますし・・・」


神秘的な見た目とは裏腹に、可愛らしい動作で首を傾げる。


「とはいえただ施設を破壊しただけってことになったら流石に怒られてしまいます。むー・・・それは嫌ですね。」


数十人の命を奪ったとはとても思えないような無邪気さで彼女は唸る。


そのまま彼女は施設を探索する。

そこは研究施設のようだが、およそ人道的なことが行われていたとは思えないような場所だった。


鼻歌交じりに歩き回る彼女。


「これは・・・ダメですね。地味すぎます。これもダメです。気持ち悪すぎて触りたくありません。」


適当なものを掴んでは投げ捨てる。そんなことをしばらく続け・・・


ついに彼女は、それを見つける。


「これもダメです。これも。これも。これ・・・も?」


彼女の視線が止まる。

その視線の先には、巨大な試験管の中に浮かぶ赤子がいた。


「赤ちゃん、ですね。ふむ、これは・・・とても、可愛らしいですね。」


見たところ普通の赤子だ。しかし、この施設で、こんなものに入っている時点で普通のはずがない。


「決めました、この子にしましょう。あの人も、子供が欲しいと言っていましたし。」


そう1人で頷くと、彼女はおもむろに言い放つ。


「『闇槌ブラックハンマー』」


その言葉と共に突然現れる漆黒の塊。彼女はそれを確認すると。


その塊を試験管にぶつけた。



轟音。ガラスの割れる音と水が飛び散る音が響き渡る。


そして、試験管の中にいた赤子は、既に彼女の腕の中にいた。


「よしよし、上手く行きました。ぶつけた後でこの子が試験管の外に出て死んだらどうしようかと気付きましたが、生きてたので問題ありません。」


そう言って彼女は静かに眠る赤子を撫でる。


「ふふっ、本当に愛らしいです。これならきっとあの人も許してくれます。」


そう上機嫌で言うと。


「『暗夜歩行ダークネスウォーク』」


赤子と、それを抱いた彼女は闇へと消えた。






「クソっ、なんなんだ一体!?」


男は苛立たしげに叫ぶ。本部から帰ってきてみればいつの間にか施設は破壊し尽くされ、仲間も皆殺されていた。

まあそれはいい。駒がいくら死のうと知ったことではない。

一番の問題は。


「『無限龍ウロボロス』は、どこに消えやがった!?」


目の前の、壊れた培養装置だ。

その中にはこの施設で行われていた実験の集大成が居た。それが失われたとなっては失態どころの騒ぎじゃない。


本部に知られたら、間違いなく自分も死体の仲間入りだ。


「っ、そうだ、監視カメラ・・・!」


施設は破壊し尽くされているが、どうも襲撃者は大雑把な性格だったようで、監視カメラは何台か生き残っていた。


「舐めた真似をしやがって・・・!絶対に、死ぬよりも辛い目にあわせてやる・・・!」


憎しみに目を血走らせ、男は映像を再生する。映像はとても綺麗とは言えないが、分析装置もなんとか生きている。


しばらく男は苛立たしげに分析をしていたが。

その顔が、驚愕に歪む。


「っ、おいおいおい、冗談だろ・・・?」


その理由は、分析の結果でた襲撃者の外見だ。

純白の髪と肌と、血の色がそのままでた真っ赤な瞳の女。それだけならいい。珍しいがただの人間の範疇だ。

問題は。僅かに開いた口から除く牙。


「アルビノの『背陽種ヴァンパイア』だと・・・!?」


それは、最も危険で凶悪なバケモノの特徴。

生きた災厄とされ、全ての生物から忌み嫌われ、恐れられた存在。


誰も、その名を知らない。

ただ、恐怖と共に彼女はこう呼ばれていた。


吸血姫ディザスティア・・・!」




結局、男はその後組織に処分され。



赤子は、吸血姫の元で育っていった。

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