レリック/アンダーグラウンド 〜最強の”失せ物探し”パーティー、ダンジョンの罪を裁く〜

藤原祐

序 迷宮について

天蓋都市ヘヴンデリート

 迷宮には人の営みすべてがある。


 先代文明末期のある偉人が謳ったと伝えられているこの惹句じゃっくは今や、冒険者ギルドの看板に記されるほど有名なものだ。


 かの偉人が具体的にどんな偉業を成したのかは伝わっていない。一説によると人類で初めて宿業ギフトを発現させた人物であるとも言われているが、だとしたら名前くらいは残っていてもおかしくはなく、それすらわからないとなれば、まあ、惹句も含めた講談であろう。


 ともあれ迷宮である。


 世界に数多ある『迷宮ダンジョン』と定義されるそれらは、すべて遡れば先代文明末期に発生したという。超技術により隆盛を極めていたこの文明は、迷宮の発生と前後して急速に勢いを失い、そこから百年を待たずに滅んでいる。おそらくは文明の崩壊と迷宮の発生にはなんらかの関連があったと思われる。


 だが現代にはもはやなんの資料も残っていない。先代文明の滅亡とともにすべて失われてしまった。


 迷宮には様々な種類ものがある。

 地下に開いた洞穴めいた空間。

 天を貫く大樹じみた構造物。

 地平に広がる荒野のごとき結界。

 時空をねじ曲げてここではないどこかへ繋がる点穴。

 階層を経るごとに景色を変え、太陽がなくとも明るく、空が見えていても暗く、内部と外ではおよそ世界そのものが異なっているかのような場所もの——。


 故に、憶測である。

 もしこれらが人の造ったものだとするなら——ただの観光施設であったとか、戦争のための要塞ではないのかとか。

 神の手によるものだとするなら——人を減らすための殺害装置であるとか、もっと単純に驕り昂った人に下された罰であるとか。


 学説から民話に至るまで実に様々なこれらは、すべて史実たり得る根拠もない。

 ただこの謎に包まれた迷宮は、現行文明下の今や、人々の生活になくてはならないものとなっていた。


 迷宮は資源の宝庫でもある。


 壁の奥に埋まった、自然界では産出されない鉱石や宝石。

 内部に棲息する、独自の生態系を持つ魔物たちの素材。

 更にはごくごく稀に発掘される、今の技術では決して作成できない先史遺物アーティファクト

 現行文明はこれら迷宮産の資源を基盤に成立していた。


 その事実を如実に示す最たる例のひとつに、天蓋てんがい都市ヘヴンデリートがある。

 世界四大迷宮のひとつにして、最深最広といわれる『外套への奈落ニアアビス』——その地上に、まさに天蓋のように建造されたこの街は、迷宮探索に挑む冒険者たちと彼らが持ち帰る資源によって栄える、王国最大の都市だ。


 そこに暮らすのは、『外套への奈落ニアアビス』へ潜るに相応しい屈強な冒険者ども。彼らの成果に金貨で報いる商会たち。貴重な素材を高い技術で加工する職人連中。街の治安を守る精鋭たる衛兵。そうして彼らに寄り掛かり、あるいは生活を支える数多の住人。


 まだ最終階層外套領域に辿り着いた者のいない底なしの奈落は、冒険者たちの野望と希望、夢と願い、そして失意と絶望、あらゆるすべてを呑み込んでもなお口を開け続け、その上にへばりついた都市もまた、住人たちの喜怒哀楽、喧騒と安寧、隆盛と没落——つまりは人生すべてを灯火にして明るく煌めいているのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る