NEXCL 再世女神の超神譚 アリシア トレーニング

daidroid

鉄橋フロントブリッジ

 学生になってもアリシアに日課は変わらない。

 ATDXを使った過酷なトレーニングを朝からずっと続けている。

 それも自らを鍛えるオリジンプログラムの強度に耐えるとか悪魔との戦いに備えて力をつけておくとか人を“生かす”為に己を犠牲にして体を極限を超えてもなお鍛える。

 




「はぁっはぁ……はぁっ……」




 アリシアは訓練用の黒いダイレクトスーツを身に纏い、フロントブリッジの姿勢で体幹トレーニングを行っていた。

 肉体資本のパイロットにとって肉体のバランスを保つ体幹はかなり重要なトレーニングだ。

 だが、その過酷さは人間のそれを逸していた。

 黒いダイレクトスーツにはアリシアに体にかなりの負荷をかけるように設定されている。

 その負荷は通称“鉄橋フロントブリッジ”と称されるレベルのモノでありアリシアの体には鉄橋と同じ荷重がかかっていた。




「はぁっあぁぁっくぁっ……」




 あまりの苦しみに悶えてしまう。

 始めてからかれこれATDX内時間で30時間くらいになっていた。

 「そんなにやるのか!」と誰かは言うかも知れないがまだ、1割すら経過していない。

 この鉄橋の重みをデータ上の鉄橋のデータから算出された鉄橋の耐久年数×3倍の時間を耐えないとならない。

 100年とかでは済まないのだ。




「はぁっあぁっ……はぁ……はぁ……」




 額から汗が滲み出る。

 その汗が顔から滴り落ち汗の池を造り出し滴る汗が体を沿って局部の辺りからポタポタと落ちて行く。

 脚なども震えておりまるで小鹿のようだった。


 こんな負荷を普通の人間が耐えられるはずが本来はないのだ。

 例え、神の精神を心に宿していても肉体を纏っている以上、基本的に人間と遜色はない。

 それでもなお、耐えるとするなら本当に何かを為そうとする強い意志がそれを為しているとしか思えない。




「かぁっあぁぁぁうわぁ……あぁ」




 肉体と精神が悲鳴を挙げる。

 それでも己の意志で肉体と精神を屈服させて闘志を滾らせる。

 脳の電気信号が加速度的に危険信号を警らする。

 筋肉とは脳が「あなたの肉体はこのくらいの筋肉が無いと死にます」と言う信号によって増強される。

 一切、休みなく体を酷使し疲労困憊の中で体を苛め抜く事でアリシアは常に生と死の境を彷徨う程に体を死に追いやっている。

 それにより肉体や人間とは思えない速度で強化されていく。

 

 更にこんな過酷な中では自分の肉体を維持する為にスキル“生成”で常に自分に栄養素や水分を創造し供給している。

 発せられる体熱はスキル“熱変換”を施したダイレクトスーツによりWNに変換され自らの熱で死ぬ事はない。


 排泄的な生理現象も術の精度を極める為に体内で破壊魔術“対消滅”で老廃物を対消滅させそのエネルギーをWNに変換すると言う高度なテクニックを極限の精神状態で常に行使していた。

 偶に余裕がない時は難易度の低い時空魔術で老廃物を空間転移させて近くの海に捨てている。

 肉体的にも魔術的にも過酷な修練を積む中でアリシアの肉体も精神も超神的になっていく。




「はぁっはぁ!はぁあぁぁ!」




 時間が経てば経つほど痛みが増し悶絶する。

 神の肉体でこれらの事を行いならこんな苦労はしなかっただろう。

 しかし、“苦労”と“忍耐”を伴わない修練は精練された魂を造れず、より大量により高次元に精練された神力を産み出す事もそれに相応しい器を造る事もできない。

 

 その点で言えば、人間の肉体とは都合がよく、脆い肉体ではあるが受ける苦難の効率が高いので神力が精練され大きくなり易い。

 

 そんな肉体に人間の限界を超えるような負荷をかければ得られる神力も莫大になるので相対的に器も大きくなるしかないのだ。

 だから、アリシアは必死に耐えるのだ。

 自分が耐える事で誰かを“生かせる”ならと喜んで自らを精練の炉の中に放り込む。

 そう言った頭が壊れていて優しい女なのだ。




「あぁぁぁっ!うはぁぁっはぁ……はぁ……」




 時間はかなり経過し鉄橋は既に耐久年数を超えて自壊した。

 だが、これでもまだ、半分も経っていない。

 アリシアの過酷な修練はまだ、続く。


 肉体は極限まで高ぶり体のストレスも大きくなり副交感神経が優位に働こうと活発に動き、局部からアリシアの意志とは関係なく射精物が放出され、局部に真下にポタポタと滴り落ちる。


 アリシアの肉体と精神は極限まで追い詰められていき、更その超神さは過度になり神経は更に研ぎ澄まされ、感覚がクリアになっていく。


 飽和しても飽き足らないほどの神力が空間に満ち、アリシアは世界の全てを敏感に肌身で感じる。

 海に存在する原子の個数から川のせせらぎの音の波長、この世界の宇宙の鼓動等肉体と精神が追い込まれるほどそれらを深く鋭く感じ取る。

 体は既に傍からみればかなり無惨であり全身の血管がスーツ越しに隆起し脈打っており心臓は爆発するのではないかと思えるほど打ち鳴らす。

 体中の筋肉がまるで各部位が心臓の役割でもしているように胎動しアリシアは文字通り全身で命の鼓動を滾らせる。




「あぁぁぁぁぁぁぁぁうっぁぁぁぁぁぁ!」




 最早、悲鳴に近い断末魔を挙げるそれはまるで地獄に池に放り込まれた罪人の阿鼻叫喚のようであった。




 ◇◇◇




 こうして、訓練は無事終了しアリシアは力尽きたようにぐったりとその場に倒れた。

 肩から息をしており目の焦点などは一切合っていない。

 体全身が震えておりまるで人間ではない別の生物のように見えた。

 だが、この世界、トレーニングプログラムは無慈悲に告げる。


 5分後、もう1セット (残り9999億9999万9999セット)


 アリシアは空中に浮かんだそれを見て何を言わず這いつくばるように体を起こした。

 その目は普段とは違って鋭い眼光で炯々に見つめていた。

 彼女はまだ、戦う気なのだ。

 地獄で情けなく泣いて命乞いをしていた自分はとっくの昔に死んだのだ。

 弱い自分は本物の地獄の中に捨てて来た。

 だから、アリシアのやる事は1つだった。




(どんな地獄だろうと必ず勝って見せる)




 アリシアの闘志は決して尽きない。

 これはまだ、現実世界では朝の6時の出来事である。

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