NEXCL 鬼畜スライム討伐記

daidroid

最強のスライム(某リ〇ルは除く)

アリシア アイはあらゆる世界に存在する。

 オリジナルとも言える本体から分離した各世界派遣された守護者のような存在だ。

 世界には大きく3つの世界に大別される。

 “地球”“変異黄泉世界”“異世界”の3つだ。

 地球は言わずもがな地球が存在する宇宙全てを指し、変異黄泉世界は俗に言う“あの世”に最も近い世界であり天国と地獄が存在する世界だ。

 そして、異世界は過去にアリシアが悪魔と戦った余波で出来てしまった亜空間に存在する多宇宙の事を指す。

 その異世界の1つは今、あるスライムの脅威に晒されていた。




 ◇◇◇




 事の発端は10年前

 ある魔術師がスライムの研究をしていた。

 スライムとはこの世界では最弱の魔物であり意志が殆どなく、液状物質を薄い膜で保護しそれを内部の触媒石と言う魔術媒介で形状を維持する原始的な単細胞生物の1種である。

 生態としては液状物質を代謝する為に周囲にある有機物を取り込み消化する性質を持っており有機物と無機物を判別する事でできる眼点と呼ばれる機関が膜の表面にあり光の反射の度合いで判断している。それ故に光などに反応する性質を持っている。

 これが一般的に知られるスライムであり、単純な原始的な行動しか取れない事も相まって大した強敵とは認知されなかった。


 しかし、その魔術師はスライムが単細胞生物であるが故に繁殖が容易である事に着目しそれを従魔化する事で自国の軍備増強に使えるのではないかと様々な実験をした。

 そして、単細胞生物と言うのは人間のような多細胞生物よりも単純な為、多少の実験でもタフな強度があり望んだ成果を出し易い個体でもあった。


 その結果、生まれたスライムの一体がホリックライトダイラタンシースライムと言うスライムだった。

 ホリックライトと言う砕け易く脆い微細な粒子金属をスライムの液状体の中に混ぜ、体内でホリックライトを生成するように改造したスライムだ。

 ホリックライト自体は地球で言うところの黒曜石のような原始的な武器に使われた大した希少価値もないただの石と認知され、スライムの研究と言う誰も見向きもせず予算も大しておりない魔術師でも容易に手に入れる事ができた。


 これによりスライムは以下のような耐性を得た。

 衝撃を受けるとスライムの体が硬質化して剣や槍を一切通さない体を手に入れたのだ。

 これはダイラタンシーの特性を応用したモノだが、粉末に使ったホリックライトの分子間力の強さとあまりに細かな微細粒子だった事もありその性能を十全に活かす形となり少しの衝撃でも硬質化する高い防御性を持ったスライムが誕生した。


 魔術師は物理攻撃に対して最強とも言えるスライムを手に入れた。

 近くの街にある冒険者ギルドに偽の依頼を流し剣士くずれの冒険者と態と戦わせて実戦データを取った事からも明らかだった。

 冒険者が振り翳した剣はスライムのボディを貫通する事なく弾かれ、その隙にスライムが近くにいた冒険者を捕食する。

 そのようにしてホリックライトダイラタンシースライムは確かに有用性を示す事ができた。

 しかし……




「ライトニング!」




 冒険者の中にいた魔術師に対しては無力だった。

 特に雷鳴系の攻撃には弱い。

 雷鳴に関しては体が液状である事と金属を含んでいた事が災いして高い伝導性を持った事でスライムの中枢神経にダイレクトにダメージを通ってしまった。

 火炎や光魔術に対してはある程度の耐性があった。

 体が水分である事から熱に対して比熱が高く熱が伝わりにくいと言うスライムの特性がダイラタンシー流体により爆風には強い耐性を得た事で火炎系の魔術に高い耐性を持つ、更に金属を含んでいる事で光魔術を放っても液体中の微細金属の乱反射により光魔術に対してもかなりの耐性を得た。

 本来ならこれでも十分な成果だったのだが、国ではスライムが雑魚と言う偏見があった為にこの結果を素直に受け取る事はなく、雷鳴が弱点と言う短所を注釈し魔術師を非難した。


 それに怒りを現した魔術師はやけくそになり「だったらやってやるよ!」と言わんばかりに雷鳴に対抗する手段を考えだした。

 その結果、遺伝子操作で膜にカーボンブラックを形成する事に成功しそれにより表面の膜に直撃した電流はカーボンブラックを流れ、地面に放電する事で高い耐電性も獲得した。


 引き続き冒険者と戦わせてもその結果は明らかで世に出回っている殆どの魔術を一切寄せ付けない剣も槍も通じない最強のスライムが完成した。

 魔術師は今度こそ自信を持って国元に報告した。

 だが、国の反応はとても淡白なモノだった。




「こんなモノ、ただのゴミだ」




 そう言って国の大臣は研究成果を破り捨てた。

 国にとってスライムはただの雑魚でありそんなモノを軍事利用すると言うのは国の恥じを晒すモノとして取り合って貰えなかった。

 だから、魔術師は吠えた。

 どれだけ努力しても誰も認めない悔しさと憤りが彼に芽生えた。

 自分を小馬鹿にするこの国の連中が憎いと激しく憎悪した。

 だから、魔術師は誓った。




「復讐してやる」




 魔術師はその有り余る国への憎悪を一生に注いだ。




 ◇◇◇




 魔術師が国を滅ぼす為の兵器の開発に取り掛かった。

 スライムは確かに最強とも言える防御性を獲得した。

 だが、まだ足りないモノがあった。

 それは攻撃力だ。


 スライム単体では相手に近づき捕食する以外の事ができない。

 スライム自身、自らの肉体を維持するので手一杯で魔術を単体では行使できないのでどうしても打点不足になる。

 しかし、さほどそれも問題にならない。

 スライムは他の生物とは違い単細胞生物なので大量の繁殖ができ、物量で圧倒するができるのでその点でカバーする事ができる。

 ただ、それでも足りない……と魔術師は思った。


 生物である以上、疲労を抱えるのは自明でありスライムもまた、その原則は外れない。

 本来、そんな事は誰も勘定としていれないが憎悪に駆られた魔術師には関係ない。

 そこで彼はある魔物に着手した。

 それは蟻だ。


 蟻型の魔物には脳がない。

 蟻は女王から分泌されたフェロモンを媒介にし群れを形成している。

 そのフェロモンによって他の種の蟻すら支配下におき、一切思考せずただ、本能のままに敵を襲い続ける疲労知らずの狂戦士となっている。

 魔術師はその特性に着目した。

 そして、例の如く遺伝子改造してクイーンスライムを筆頭とした軍隊スライムを造り出した。

 こうして、完成してしまったのだ。

 水と地中に含まれるホリックライトの元素と有機さえあれば簡単に細胞分裂を繰り返し、火炎、雷鳴、光と言った基本魔術を一切寄せ付けず、剣や槍を一切貫通しない。

 かつ、どれだけ行動しても一切疲労を起こさず、クイーンスライムの「本能」に忠実なだけのスライム軍団が完成してしまった。


 その誕生と共に製作した魔術師は歓喜しながらクイーンスライムに捕食され彼の拠点を中心にスライムがその数を増やした。


 周囲の木々や魔物を捕食し地面すら捕食しながら進む軍隊スライムは進軍を進めるに連れてどんどん数が増し、1国を滅ぼすのに十分な性能があった。

 結果、10日にしてその国全てを更地にして国を滅ぼした。

 だが、軍隊蟻のようになったスライムの侵攻は留まる事を知らずその数は爆発的に増えた。

 スライムの寿命がだいたい5年であり細胞である以上、いつかは死に個体はどこかで頭打ちになるだろう。

 しかし、兵器化されたスライム達はとにかく、繁殖力が非常に高く、彼らを構成する素材もその辺に転がっている事も相まって爆発的にその数を増やした。

 まるでその様は世界を呑み込むようであったと後世には語られている。


 こうして、10年後には大陸の半分は呑み込まれ、人間が生きられる土地は大幅に激減した。

 アリシアが現れたのはそんな滅亡寸前の時だった。

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