4-17


 ここ最近では、当たり前となった光景。

 夜になってもエルは電灯の下で教科書を読んでいる。

 つまり、勉強をしているのだ。

 教科にもよるが、近々小学校卒業レベルの学力を持つことになるだろう。

 なぜか、このドリームワールドの教科書のレベルは低いからな。

 そうすると中学生の問題かぁ……


「なぁ、エル。勉強は面白いか?」

「はい、色んな事が分かって、楽しいです」

「そうかぁ……」


 もしかして婿養子作戦ではなく、エルをどこぞの研究機関にでも入れる方向でゲームクリアになるのだろうか?


「パパは、勉強が、きらいですか?」

「いや、好き嫌いじゃなくて義務みたいなもんだと思ってたからなー」


 エルは、少し不思議そうな顔をして首をかしげた。


「でも、パパ。勉強教えてる時、楽しそうです」

「そうか?」

「はい。私が漢字とか覚えるたびにパパは、喜んでくれます」

「ふむ。もしかして、俺が喜んでくれるから、勉強してるってのもあるのか?」

「はい。それもあります」

「そうか……」


 嬉しくなってしまい、思わずエルの頭をなでる。



 翌日――


 太郎も、実も、武も、きちんと勉強しにきてくれた。

 なんでも、実際に勉強しているのかどうか疑われ、ノートを見せたらビックリするくらい喜んでくれたそうなのだ。

 3人そろって、やっぱり社様はすごい!

 そう言ってくれるのは嬉しいが……

 俺は、教師に文句を言ってやりたかった。


 竹刀振りたきゃ教室じゃなくて道場にでも行ってやれってな!


 勉強の方は、昨日のおさらいから開始。

 武だけは、引き算にミスがあったが、それ以外は合格ライン。

 だから掛け算の基本。九九くくからやってみる事にした。

 声に出して1の段から9の段まで、何度も何度も繰り返す。

 たびたび、間違えては、ビクッっとする。

 おそらく竹刀でぶたれるイメージがこびりついちまってるのだろう。


「間違えてもいいから、そろって最後まで行けるように頑張ろうな」

「「「はい」」」


 暑い中だと言うのに元気がいい。

 たまに来た客には驚かれるが、理由を説明すると、


「うちの子もめんどう見てもらおうかしら?」


 なんて言われてしまったりもした。

 形式上断りづらいので、いちおう俺で良かったらとは言ってみたが……

 これ以上、増えたりでもしたら商店ではなく学習塾みたいになってしまう。

 しかも無料だから、市川家にとっては負担にしかならない。


 大丈夫だよな?


 下手に増えたりしないよな?


 そんな事を思っていた俺がいたのは昨日までの話――


 本当に連れてきちまったのだ!

 今度は女の子が3人!

 そこで普段は市川夫妻が寝室として使っている部屋まで使わせてもらうことになった。

 小さな仏壇に少し日焼けした息子さんの写真がある。

 こんな所、本当に使わせてもらってもいいのだろうか?

 とも、思ったが。セツコさんの言うには、孫が出来たみたいで嬉しいそうで。

 むしろ好きに使ってくれといった感じだった。

 女の子の名前は美代子に美智子に幸子。

 美代子と美智子が双子の姉妹で、その友達が幸子。

 みんなハンコで押したように、そろっておかっぱ頭で地味なワンピースを着ていた。

 学校が終わってからの参加なので本当に塾みたいである。

 唯一の救いは算数だけ教えてくれればいいという限定的なものだったことだろう。


 どこでつまづいているのかと思ったら3人そろって掛け算と割り算の辺りだった。

 どうやら九九をしっかり覚えきれていないみたいだったので、太郎達と同じく事をしてもらうことにしたところ。

 予想どおり、後半で間違ったりしている。

 7の段と9の段が特にダメっぽかった。


 だから、なんできちんと覚えさせないで先に行っちまうんだよ!


 これでテストの点数が悪いとか言われたって生徒のせいじゃねぇだろ!

 完全に教える側の問題だと思った。

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