転生途中で女神様を怒らせてしまい棒人間にされたけどミスって全属性扱えるようにもしてたのは内緒の話

佐武ろく

口は災いの元

俺は高松たかまつ 隆史たかし

健全な高校2年生だ。普段は学校に行って適当に授業を受けて放課後に最速で帰る帰宅部のエース。家ではアニメとかゲームとかまぁ色々忙しくして、それなりに悪くない人生を過ごしてる。強いて言えばこの世界が3次元って言うのが不満だな。

まぁそれはいい。むしろ3次元で生きているからこそ2次元の良さをより一層噛み締めれるってもんだ。そう考えると不満ではないな。


とにかく俺は人生を謳歌とまでは行かなくとも十分楽しんでいた。

だがそれはたった今、終わった。

休みの日と書いてきゅうじつと読む土曜日。あの漫画の新刊とあのアニメのスペシャルDVDBOXを買った俺は、気分ウキウキのウッキーお猿で家に帰ろうとしていた。だが横断歩道の信号が赤なのに気が付いたから立ち止まろうとしたその時、不覚にも躓いてしまった。しかも何もないとこで。もうそれは回避不可能じゃん。


そのままあれよあれよと道路に飛び出してしまい後は想像通り終わった。せめて可愛い女の子を助けてとかなら良かったのに。というか買ったこの漫画とアニメぐらいは見せてよ。

なんて愚痴を言う暇もなく呆気なく俺は人生に幕を閉じた。


―――はずだった。


「起きなさい」


その風のような声に俺は目を開ける。そこは広さも分からない真っ白な世界。眠い訳じゃなかったが夢見心地で不思議な感じがした。そんな状態で体を起こし辺りを見回してみるがどこまでも白が続くだけ。


「こっちですよ」


また聞こえたあの声に導かれ後ろを振り返る。俺は自分の目を疑った。

そこには玉座のような椅子に優雅に腰かける女性の姿。だがその大きさは今までに見た事ない程のものだった。


「残念ですがあなたは命を落としてしまいました。ですが―――」

「もしかして」


もちろん混乱はあった。だがこういう状況は既に見慣れている。もし俺の知識通りならこの人は。


「女神様!?」


俺の問いかけに女性は仏のような笑みを浮かべた。もし本当に女神なら神が仏のような笑みをっていいのか? まぁいいか。別に対立してるわけじゃないでしょ。


「はい。私は女神セルティア・カミュ―ダ」


すると女神は椅子から立ち上がり徐々に体を小さくしながら俺の目の前まで近づいて来た。

おぉ。どここからどう見ても女神だ。色んなアニメで見た女神だ。


「この状況で冷静を保っていられるとは中々に見どころのある人間ですね」

「まぁそうっすね。予習済みなんで」


アニメの世界と同じならこっちのもんよ。

すっかり慣れた俺は気が付けば腕を組み目の前の女神を観察するように眺めていた。女神をお目に罹れるなんて普通ならないから今の内に堪能しておこうってことさ。

だがじっくり見ているとあることに気が付いた。


「ていうかセルティアさんって思ったより...」


微笑みを浮かべながら少し首を傾げる女神は中々可愛い。だけど今の俺はこのことが残念でしかたない。


「貧乳じゃん」

「は?」

「えっ?」


今、は?って言った? そんなまさか。しかも結構低い声だったし気のせいだろう。


「いや、俺の想像してたっていうより見てきた女神様ってもっとこう」


俺は胸部分で大きさを表すジェスチャーをした。


「大きくて、飛び込みたくなるような、全てを包み込んでくれそうなものを持ってるイメージだったんだけど」


そう言いながら視線は相変わらず胸へ。


「セルティアさんのは飛び込んだら痛そうというか。随分と控えめというか。さっきは全体的に大きかったから気が付かなかっ―――」


一瞬何が起きたか分からなかったが、ゼルディアさんの手が真っすぐ伸びてきて俺の口を塞ぐように掴んでいた。しかも力強っ。


「あお、えういああん?(あの、セルティアさん)」

「こちとら好きで控えてるわけじゃねーんだよ。つーか女神をそんな目で見てんじゃねー。キモイんだよ、〇ね」


急に口悪っ。こわっ。というか。え? どゆこと? 二重人格なん? 白と黒ぐらい正反対な口調に急になるじゃん。そういうスイッチでもあるの? 押しちゃった?


「いいおういんえるあら(いや、一応死んでるから)」


セルティアさんの表情は相変わらず微笑みを浮かべていたがこれは確実に怒ってるな。むしろ微笑みが怖いまでもある。


「あぁー、もうかったりー」


天を仰ぎながら如何にもめんどくさそうに叫ぶと投げ捨てるように手を離した。そして背後に現れたさっきの椅子に倒れるように腰かける。

既にガラリとキャラは変わり最初の優し気な様子はもう欠片もなかった。

なるほど、これが本性か。女神恐るべし。


「あんたのせいでやる気なくなったからもう適当でいいよね。で、転生なんだけどどーする?」


あぁーあ。もう頬杖ついて脚組んでそもそもこっち見ないで爪見てるし。というかなんだよあの言葉遣いわ。怖さが無くなって思い出してみたらちょっと腹立ってきたな。女神のイメージが総崩れだよ。100歩譲って貧乳は仕方ない。だけど口悪すぎだろ。萎えるわぁ。


「おーい。きーてるか?」


いやだ。こんな女神に転生させられるなんて。


「チェンジで」

「は?」


俺は内に燃える欲望と言う名の炎を燃料に勢いよく指を指した。


「いやだよ。あんたみたいなのに転生させられるなんて!俺はもっとこう巨乳で優しくて女神のような、って女神か。とにかく巨乳の優しいお姉さん女神に転生させられたいんだよ!あんたみたいなのじゃなくてな」

「知らないわよ。つーか勝手に理想押し付けられても困りまーす」


爪をいじりながら適当に答えやがって。こんなの本当ならクレームものだよ?


「というかみんな似たようなもんだから。あいつらはただ盛ってるだけだから。はい。ざんねーん」

「盛るものすらないくせに」

「は?なんつった?」


やばっ。今、目を合わせたら殺される気がする。死んでるけど。


「よーし分かった」


何が分かったのかそう言うとセルティアは椅子から立ち上がり真っすぐ俺の前まで足を進めた。それを横目で確認していた俺は様子を伺いながら顔を正面に戻した。と同時にセルティアの手が伸びる。だが今度は雑に口を掴まれることはなく撫でるように優しく頬に触れた。


「仕方ない奴め。女神の本気っていうのを見せてあげる」


その声はどこか優しく色っぽい。まさか、本気ってそういうこと? マジ? それはちょっと心の準備が。というかやばっ。勝手にニヤケちゃう。

色々な期待に胸が一杯になっていると突然、目の前が真っ暗になった。何事かと吃驚はしたもののそれは一瞬で元通りになる。

視界が戻るとセルティアは目の前から消え椅子に座っていた。しかも笑ってる。というよりニヤついてる。もしかしてからかわれた?

何て女神だ。女神というより悪魔じゃん。


「いいね。良く似合ってる。ほら、あんたも見てみなさい。新しい姿を」


訳の分からないこと言いながら指を鳴らすと俺の目の前には姿見鏡が現れた。


「えっ?」


そこに映った姿に、俺は戸惑いを隠せなかった。だって。そこに映っていたのは。


「ぼう..にんげん?」


お手本のように丸い頭に一直線に引かれた四肢と胴。そしてその姿をじっくりと見る余裕がある程には遅れてきた感情が一気に俺の中を満たす。


「えええぇぇぇ!うそっ!だって。これ。棒人間...ええぇ?」


動揺が止まることを知らない。一般家庭の一日分の電力を発電できそうなぐらいには動いてるわこれ。


「いいと思うけど?」


姿見鏡は俺を映しながらも後ろのセルティアを透過させた。だからあいつがニヤついて笑ってるのが良く見える。


「何だよこれ戻せよ!」


俺は人間のまま転生したいんだ。もしくはそれに準ずる種族で行ってあわよくばきゃっはうふふとかしたいじゃん。それを期待するのも醍醐味じゃん。なのになんだよこれ。訳の分からん姿して。というかこの姿のやつ他にいるのか? こういう種族がいるのか? いないなら見た目からしてヤバいやつじゃん。嫌だよ。変な目で見られながら転生生活を送るのなんて。


「えぇー。そっちの方がイケてるけど?その何の能力もないただのちゃちな体がよく似合ってるわ。ぷぷっ」


バカにしやがって。

かくなる上は...。女神だからって容赦はしねーぞ。俺は姿見鏡の横を通りセルティアの前まで足を進めた。許さん。

そして。


「お願いします!戻してください。さっきのことも謝りますから」


これぞ大抵の要求を通す秘儀。DOGEZA。しかも俺のはもはや地面と一体化しているといっても過言でない程に頭を下げるという達人の域に達している。ここまでされればさすがに断れまい。むしろ罪悪感さえ生まれて来るだろ。


「やだ」


即答かよ。しかも言葉の前にちょっと鼻で笑いやがった。何なんだコイツ。悪魔かよ。今日から女神じゃなくて悪魔を名乗れよ。


「まぁでもー。そこまでされちゃ、さすがにねぇ」


おっ。やっぱり心が痛むか。多少なりとも善心は残ってるようだ。なら、ここでもう一押し。


「お願いします。何でもしますから」


何でもとは言ってない。ここまでがセットなのは基本だけどさすがに知るまい。

すると頭に何か押し付けるような感覚が。


「まぁ許してあげでもいいかなぁ」


こいつ。俺の頭を踏んでやがる。一部特殊スキルを持つ者にとってはヒール効果があるかもしれないが俺にとっては屈辱以外の何物でもない。というかもう悪魔通り越してもう魔王じゃん。勇者に討伐されろ。もしくはご飯食べようとして炊飯器開けたら保温押してて炊けて無かったって状況になれ。


「はぁー。でも仕方ない。あたしは優しい!からそーだな」


優しいをやたら強調したかと思うと少し黙り、その後に指のパチンという音が聞こえた。


「1億Mu《ミュール》。持ってきたら元に戻してあげる」

「1億!?」

「そう。それをこれに集めたら戻してあげる」


やっと足がどかされ代わりに俺の前に落ちてきたのはがま口財布。カエルの形をしたやつ。


「頭を撫でたら取り出す金額、お腹を撫でたら入ってる金額が表示されるから。それとそれに1億Mu貯まったらあたしに知らせが来る仕組みよ」

「1億ってそんなの稼げるわけないだろ!」

「じゃーそのままでいれば?」

「この鬼!悪魔!人でなし!」


すると半べそをかいている俺の足元に円が出現し光の柱が包体をみ込む。


「残念ながらあたしは女神でーす。じゃ、いってらっしゃーい。頑張ってー」


スッキリしたような満面の笑みを浮かべた上に優雅に手を振るセルティア。

その姿を最後に俺の意識はコンセントを抜いたテレビのように切れた。


              * * * * *


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