死体処理進行中


『いくら治安の良い日本でも行方不明者はたくさんいて、警察の捜査でも見つからない人たちばかり』


 そんな話を真に受けていたのは高校生までだった。必要に駆られて調べれば、思い込みで語られた都合の良い妄想だとすぐにわかる。


 日本における行方不明者は年間8万人ほどで、所在が確認されるのもだいたい同じくらいだ。ほとんどの人が何らかの形で発見されているし、届出から1週間以内に所在確認される場合が半数にも及ぶ。男女比は男が6割、女が4割程度。原因で言えば疾病と家庭関係だけで4割を占めている。


 どうして調べたのか? 理由は簡単だ。小手先のトリックで容疑者から外れるより、死体そのものが見つからない方がだろう?


 僕が目指すのは、現在たった数パーセントしかいない完全な行方不明者をつくること。最低でもこの女が身元を確認できなくなるくらい腐敗して、知り合いも行方不明になったことを忘れるくらいの年月が経つまで見つからないようにすることだ。


 面倒だ、憂鬱だ、と思いながら疲弊して痛む腕を動かし続ける。チェーンソーなんて大層なものが必要になる理由は一学生の僕にはないので、2年前から料理好きを装って包丁を買い集めておいた。けっこうな数のそれらを犠牲にして彼女を解体していく。

 カムフラージュのために始めた料理は存外自分の性に合っていたらしく、当初は苦手だった動物の調理も今ではお手の物だ。怪我した部位ですら目を背けていた僕も、毎日肉や魚を切っていれば嫌でも血肉に慣れた。それこそ、人間を切ることにさえ動揺しなくなるくらいには。


 ざくり、とやや切れ味の悪くなった包丁で肉を断つ。体にはずいぶんと疲れが溜まっていて、集中力もそろそろ切れそうだった。

 ちょうど一段落したところで休憩を取ることにした。痺れるように痛む腕を労わり、固まった体を解しながら、風呂場へ行くために僕は地下室の階段を上った。

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