第17話 部内リーグ戦

 部活動をしているということは、当然だが大会がある。


「っしゃあ!ありがとうございました!」


 渾身のスマッシュを決めた俺は声をあげた。今、俺たちは学園の一室で、大会に出場する選手を決めるためのリーグ戦を行っていた。と言っても個人戦は全員出場可能なので、正確には団体戦に出場するメンバーを決めるためのリーグ戦だ。そのうちの男子リーグ戦で俺は最後の対戦相手を下したところである。


「悔しいな。滝川君、前よりはるかに強くなってるね」


「ありがとうございます部長。いいゲームでしたね!」


 勝利の興奮そのままに宇田部長と握手した。そういう決まりはないけど、勢いで、ガッとね。セット数は③ー①だ。部長は強いけど、今回はフルセットまでもつれることもなく勝ちきることに成功した。


「これでリーグ戦男子の部は終わりだね。いや~、滝川君との全勝対決、やっぱり勝ちたかったな~」


 言いながら天を仰ぐ部長に苦笑しつつも、やはり勝った喜びがポカポカと俺の中に広がる。この瞬間、我が部の卓球男子のエースが俺に決まったのだ。部の規模に関係なく1番というのは充実感がある。そして、緊張感も。この地位を誰にも譲りたくない。エースとして、大会では俺が引っ張っていく。己の心持ちが一段と強く、さらには太くなった。


「お、こっちも熱戦だね。滝川君も見なよ」


 部長に促されて目を向けると、女子のリーグ戦をしているコートだった。片方のプレイヤーは、みちるだ。部活用にと新調したトレーニングウェアは、黒を基調としたシンプルなデザインのものだ。似合っているし、カッコ良さがある。黒という色が持つ力なのか、強そうに見える。そのウェアを身に纏っているプレイヤーは確か実力を持っているだけに、思わず見惚れてしまいそうになる。今だって、ボールに対して素早く体をずらしたみちるが基本通りのドライブでコースをついた。程よく回転のかかったボールは、コース脇を抜…けずに、緩やかな放物線を描いてみちるの陣地に返球される。このチャンスボールも十分なタメをつくってから、角度の鋭い振りでドライブスマッシュを打ちこんだ。文句の付けようがない正しいスマッシュは果たして。先程同様に放物線を描きながら戻ってきた。再度みちるが打ち込むも、コートからオーバーしてしまう。みちるの表情は変わらないが、スコアボードは有無を言わさずに変動した。


「さあ、滝川君はどっちが勝つと思う?」


 部長はニコニコしながら俺に問うた。


「確かにいい勝負ですけど、みちるは強いですよ。まあ、苦手なタイプがいるとしたらコイツかもな、とは前から思い当たってはいましたね」


 相手プレイヤーは、いたずらっ子のような笑みを携えながら、みちるを見ている。


「フッフッフ、とうとう追い付いたじゃん、みちるっち!ウチみたいなタイプと対戦したことは、多分ないんじゃん?これがウチのプレースタイル、じゃん!」


 奈鬼羅なきら みちる 10-10 羽月はねつき 羽月はつき


 第1セットから、みちると羽月の試合はデュースに縺れこんでいた。ここからは先に2点差つけた方がセットポイント獲得となる。女子のリーグも、これが最後の一戦。ここまで全勝のみちると1敗の羽月(凛先輩に負けた)の対戦は、どちらにもリーグ戦1位の目が残る大一番である。


「確かに、あたしはカットマンと試合するのは初めてになるです。もちろん知識としては知っているですが」


「ウチは小学生の頃からカットマン一筋じゃん。その辺のなんちゃってカットマンとはワケが違うじゃん」


 カットマン。下回転をかけるカットを主な打ち方として、台から離れながらでも、粘り強くカットし続けるプレースタイル。1つのプレーに対する継続力と、多彩な変化をかけた返球で相手のミスを誘う。攻撃に転じることもあるにはあるが、基本的にはディフェンスを固める忍耐力が必要な戦い方だ。


「確かに。動きが慣れているです。それよりも羽月先輩のキャラクターからカットマンとは、予想外です…よっ、と」


 みちるのサーブで始まるも、即座にツッツキの応酬へと切り替わっていく。このパターンになると分があるのは、やはり羽月だ。築き上げてきたツッツキの感覚が冴え渡っているように見えた。その道の専門家と同じ土俵に上がるのは…うん。得策とは言い難いかな。やがて、みちるがツッツいたボールはネットに遮られた。


「フッフッフ、セットポイントじゃ~ん」


「はいです。サーブ、どうぞです」


 落ち着きはらったみちるに、羽月は一瞬ムッとした表情を浮かべたが、すぐに構える。そっとボールを上げて、下回転のバックサーブを出す。再度ツッツキ合戦になるが、みちるがドライブショットするのを皮切りにコートから離れた戦いに発展する。また、長時間のラリーを予想してしまう流れだった。結果はこれに反して早く、みちるがストレートコースに打ち込んで同点とした。打ったところから距離の長い対角線上よりも、距離の短いストレートにボールを入れる方がオーバーミスする可能性が高い。つまり、リスキーなコース取りをすることでポイントに繋げた。


「やれやれ、ちょっと集中しないとじゃん」


 頬をポリポリかきながら、羽月は独りごちた。


「全くです。だって、本番はこれからだからです」


「じゃん?」


 不穏なみちるの言葉に?を浮かべた羽月だが、すぐに構えた。理由はみちるが既に構えていたから。


「いきますです」


 より一層大きく見開かれたみちるの瞳には、ラケットの赤いラバーが映って見えた。





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