【星恵の佑者】「星の旅立ち」

 例の一件が幕を閉じ、私は一人、大聖堂へと戻っていた。


 実のところ、冒険者になった理由が特別あったわけではなかったため、何のために——この先何を目的とすべきか迷っていたのだ。

 そんな時、人手不足が理由だと思うが、私はベクトールに声をかけられ——そこでかつてから憧れていたクロムを間近で見ることができた。


 あの人は、先輩とよく似ていた。

 私が記憶を失い、教会に足を踏み入れた時に、私にあらゆるイロハを叩きこんでくれた。先輩も、私と同じようにかつての記憶を失った孤児だったようだが、それもあってか私のことをよくしてくれたのかもしれない。

 あの人も——そして先輩も、何かとあきらめの悪い人だったから——



 大聖堂の自室で横になり、深く考え込んでいた。

 そして、長い時間考え抜いて、私は今日の一件を経て、自分なりに目標が浮かんだ。






 後日に開かれた会議でも、彼の姿はあった。


 もしかしたら、彼を見ることができるのは今日で最後かもしれない。本当は「パーティに加えてください」だとか、「友達フレンド」になってくださいだとか、彼とのつながりをとどめる方法はいくらだってあったんだ。だけど、私の個人的な意思を理由に、彼を振り回してしまうのは間違っている。それに、以前のように私は彼の気に障ることを知らず知らずのうちにしてしまうかもしれないし————


 そんな思いを抱えながらも、私は必死で胸の内をこらえながら、彼に「さようなら」と笑顔で囁いた。彼——クロムはその一言に若干疑問的な表情を浮かべていたが、仕方ないことだ。



 西の大陸——寒冷凍土で、たくさんの人たちが困っていると聞く。私も彼のように、誰かを助けられる人にならなくちゃ——





 こうして私は、西の港から寒冷凍土を目指すのであった——

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