~幕間~

後日談「狼王を討伐せし者」

 すべてが幕を下ろした後、俺はギルド本部から召集を受けた。

 例の件での報告会議らしい。それと、「ブリトニーは連れてくるな」と書かれているが、これは一体どういうことだろう。


 俺は取り敢えず、「適当に街をブラブラしててくれ」とブリトニーに頼み、Gゴールドをいくらか渡してギルド本部を目指した。

 ——そうそう、ブリトニーとはしっかりパーティメンバーになっておいたから、終わった後は地図を見て探せばいい。






「お? オシャレな装備に変えおって——気分が良くて奮発したか?」


 会議室に足を踏み入れた途端、まず始めに目に入ったのはヴァイオレットの姿で、彼女は俺の恰好を見てちょっとだけバカにしながら笑った。


 俺は多少不愛想に、横目で彼女に、「ヴァイオレットさんの方がお美しいですよ」と白々しく返した。ヴァイオレットは相変わらずゲラゲラと笑っていた。



 中央に巨大な円卓が置かれたその部屋は、豪華な飾りでキラキラとしていた。——だが、正直豪華とか華やかとかなモノを見ると、どことなく下品さを感じてしまうのはなぜだろうか——


 卓には既に、例に討伐に参加した俺意外の人たち(中にはアルルもいて、笑顔で俺に手を振っている)が腰かけていて——中にはピンピンしたウォルロの姿もあったので安心したが——それ以外にも、見たことの無いような優男やら老人やらが数人いたのが気にかかった。



 俺の隣の席はヴァイオレットで、なぜか俺の方を見ながらニコニコしている。はっきり言ってうっとうしい。


 俺はそのまま席に着いた。



 すると、突然「集まったみたいだね」と言う声が部屋中に響き渡り、卓の中央に若い男の上半身の映像が浮かび上がった。

 試験の時に見たアレとよく似ている。きっと同質のものだろう。


 俺がそんなことを考えていたら、卓に座る全員が突然頭を下げた。俺はそれに対して「?」と言う反応を示していたが、横に座るヴァイオレットに頭を掴まれて、卓に思いっきり頭を叩きつけられた。


「いってッ! なにすん————」


「バカッ! ギルドマスター様だぞ!」


 なに? あれがギルドマスター?

 俺は押さえつけられた頭を無理やり動かし、すごい角度でそこを見上げた。


 ——やっぱり、その姿は俺と同じかもう少し上の若い青年の姿にしか見えなかった。


「その辺でいいよヴァイオレット、それにみんな頭を上げて」


 映像の男がそう言うと、少し微笑みを見せた。


※ ※ ※


【ギルドマスター:トーマ】


 冒険者ギルドの創設者。

 自らのスキルによって年齢が変化しない体質となっており、そのため実年齢を知る者はだれ一人としていないと言う。


 歴代勇者の一人であり、前魔王を倒した一人とも言われている。


 また、召喚のシステムや冒険者の権利など、その他あらゆる事柄を作り上げたのも彼と言われている。


※ ※ ※


「さて、じゃー本題に入ろうかな」


 そう言って、ギルドマスターはベクトールの方へ視線を向けた。

 ベクトールはそれに対し、頷いて立ち上がる。


「今回の獣王個体オリジンの騒動につきましては、負傷者は多少出てしまい、対応以前では死者の方が……ただ、対応後の死者は0人——霧の森に多少の損壊は出ましたが、被害は最小限に抑えられたと思われます」


「うん、そうだろうね。的確な判断と迅速な対応、感謝するよ、ベクトール」


「ありがたきお言葉……」


 あのベクトールがたじたじだ、珍しい。


「それじゃあ、原因とかその他もろもろの報告もお願いして良いかな?」


「……はい」


 ベクトールは続けた。


※ ※ ※


【報告内容】


・行商人による違法取引物「魔引札」の大量密輸が、生態系に影響を与えて封印されていた獣王個体オリジンを目覚めさせてしまい、その時に緊急依頼のために向かった冒険者パーティ数名が犠牲になった。


・直ちに現場を封鎖し、ベクトール含む数名の冒険者はじめその同行者たち(Aランク・Bランク・Dランク・Dランク)と獣王個体オリジンの討伐及び封印に乗り出した。


・結果、犠牲者を出さずして獣王個体オリジンの封印に成功した。


※ ※ ※


 ベクトールはこれまでの詳細を事細かに報告していた。——しかし不思議なことに、ブリトニーに関する事情については一切触れずに。

 そのことに関してはヴァイオレット含む誰もが触れずだんまりで通しており、「ブリトニーを置いて参加しろ」と言われたことからも、おそらくそれは「俺のパーティに対する配慮」であると察し、俺も触れないでおいた。


 ギルドマスターのトーマは多少表情を硬くして口を開く。


「うーん、急いで対応しなければならなかったのはわかるけど、Dランクを二人も同行させたのは流石にマズかったかなー。相手はSランク相当の怪物だしー。まー、対応後の犠牲者がゼロだったからまだ良かったけどさ」


「はい、それは————」


 その発言に対し、ベクトールが口を開こうとすると、


「あぁ、そりゃ普通にマズいだろうよ、ベクトールさん」


 優男が横やりを入れてきた。


※ ※ ※


【生態管理官:ロディ】


 アルガリア大陸全土の生態系(魔物)を管理する優男。Aランク冒険者。基本的には現地に降り立ち、魔物を狩ることで現在の生態系情報を調査している。

 環境管理官との差別化は、「魔物中心」か「魔物中心でない」か。生態管理官は「魔物中心」である。


 活動内容としては、魔物の生態系が及ぼす被害などを中心に、原因となる魔物の駆逐や、半食数の調節、絶滅種の保護などを行っている。


※ ※ ※


 横やりを入れた生態管理官のロディは、小ばかにしたような笑みを浮かべてベクトールを煽った。ベクトールはそれに対して眉間にしわを寄せ、机を強く叩きつけて、


「もとはと言えばおまえの調査がガサツだったからだろうがッ! ロディッ!!!!」


 ベクトールは怒りをあらわにしてキレまくっていた。



 生態管理官の仕事——今回のワーウルフの件と、獣王個体オリジンの発生に関しては、全てロディの管轄だった。

 事前に霧の森の生態系の変化について調査が進んでいれば、今回のような緊急事態にはなっていなかった。大繁殖する前に何かしら手を打つことができたからだ。



「まあまあ、お二人さん。マスターの前ですし——」


 そこに割り込んできた老人——


「……おい、あんたも人のこと言えないぞ、爺さん」


 ベクトールはその人物にも怒りの矛先を向けた。


※ ※ ※


【依頼管理官:ジルヴァ】


 ギルドに押し寄せるあらゆる依頼クエストを総括して管理する老人。Aランク冒険者。


 依頼者の情報や依頼クエストの内容、その他さまざまな情報を見定めて依頼クエストのランク付けを行ったり、報奨金の設定を行ったりする。


※ ※ ※


「今回の発端はロディだが——緊急依頼を出したアイツのせいで緊急事態にまで発展した。依頼者の素性を見定めるのはおまえの仕事だよな?」


「それは……」


 ジルヴァは黙り込んでしまった。



 今上がった欠陥に加え、その他、あらゆる欠陥が浮上する。


 今回の件に関して、まず生態管理官の調査がガサツだったことで発見が遅れたこと。


 それから依頼者が犯罪者だったのにも関わらず、依頼クエストを発注してしまったこと。


 獣王討伐に乗り出すメンバーを決めるのは本来なら人事管理官の役割だが、その人物が長い間姿をくらませていて、やむなくベクトールがメンバーを編成したこと。——実のところ、冒険者試験の監督はベクトールではなく、人事管理官の仕事だったらしい。


 そして、これは依頼管理官と内容が被るが、犯罪者(密売行商人)を犯罪管理官がマークできていなかったこと。——現在は別件の調査のため不在。



 ——と、上げ始めたらキリがなかった。これで大丈夫なのか、冒険者ギルドは。

 それに、戦力最強と謳われた数名の「勇者」の一人にすら招集をかけず、挙句統括責任者であるギルドマスターのトーマは、緊急事態が起こったのにもかかわらず現在は遠方の調査のためこちらに直接顔を出すこともない。


 全てにおいてガサツ。穴だらけ。それをベクトールが全てまとめ上げているのだと、俺はこの時察した。

 そりゃキレてもしょうがない、ベクトール。



 そんな感じで言い争いが繰り広げられている中、中央の映像状になったギルドマスターが「ゴホン」と一つ咳をして、それを聞いた騒がしい人たちは一斉に静まり返った。


「まー、緊急依頼でられちゃった冒険者たちは残念だったけど——一応その後は被害者もゼロで獣王個体オリジンも封印できたわけだしさ」


「…………」


 ベクトールの表情が若干渋った。


 厳密に言えば封印したのではなく俺の持っているお守りに吸い込まれたからだろう。ベクトールはそのことについても隠していたから、そのせいで動揺したんだ。


「封印したんだよね?」


 彼は再び聞き返してきて、


「…………はい」


 ベクトールは相当間を空けて返事をした。


 その時、ギルドマスターが若干ニヤついたのが俺には気がかりだった——

 そして、


「みんなを守ってくれてありがとう、ベクトール」


「…………はい」


 トーマの言葉に、ベクトールは深くお辞儀をした。



★ ☆



 狼王を討伐したことは、本来ならSランク依頼クエスト達成レベルの報酬が発生するらしいが、今回は依頼クエストではなく一種の指令扱い——そのため金銭的な報酬はおろか、達成ポイントすら入ることは無かった。



 ——その代わりに、とんでもないものが手に入っていた。


★ ★


 会議が終わった後に、俺はギルドマスターのトーマから直接呼び出された。


「キミが……Dランク冒険者の——クロム・ファーマメントくんだね?」


「はい、そうですが……」


 その時彼は、改めて——というかこの人から自己紹介されるのは初めてか。俺に自己紹介をして、「これからも冒険者として頑張ってね」と笑顔で俺に言ってきた。


 そして、


「あ、それと、獣王個体オリジンを討伐したんならもしかしたら新しいスキルやら何やら覚えてるかもしれないから、一度電照板で個人情報ステータスを更新するのをお勧めするよー」


 その後彼は「それじゃ!」と一言吐き捨てて消えた。




 ——で、今更新したらとんでもないものを手に入れていたってわけだ。


 聞くところによると、今回の討伐に参加した他のメンバーは誰一人としてコレを獲得できていないらしい。どうやらとどめを刺した俺しか獲得できなかったみたいだ。


 で、その「とんでもないもの」ってのが——


※ ※ ※


【称号:狼王殺しウルフスレイヤー】を手に入れた——


※ ※ ※


狼王殺しウルフスレイヤーとは】


 【狼殺しウルフキラー】の上位互換で、狼王を討伐した者にのみ与えられる称号。

 獣系の魔物を攻撃した場合攻撃力が上がり、相手が獣系の中でも狼系ならさらに攻撃力が上がる。

 その時、攻撃力上昇モーション(赤いオーラ)が発生する。


 また、この称号を装着している場合に限り【スキル:狼気ウルフオーラ】を使用できるようになる。


※ ※ ※


 【称号】と言うカテゴリーに分類されるものだった。

 それは、何かしらの条件や偉業を達成した場合に稀に手に入るものらしく、装着していれば何かしらの条件でプラスの効果を得たり、専用スキルが使えるようになったりするらしい。


 ただでさえ【称号】は獲得条件が不明なためレアなのだが、その中でもさらにレアな【称号】を俺は獲得したってわけだ。



 これでまた、戦略の幅が増えるぞ。



 俺は、期待に胸を膨らませていた————











 ————ちなみに、俺の★が増えていることは、残念ながらなかった——……。



※ ※ ※


★★☆☆☆


氏  名:クロム・ファーマメント

生年月日:星歴 4997年 5月 1日(16)

職  業:農家

種  族:人


属 性:無

称 号:【狼王殺しウルフスレイヤー】(装着済み)

魔 法:なし

スキル:カテゴリー:農作業

UP! 【植物成長補正】★★☆

    【種まき効率化】★☆☆

    【水やり効率化】★☆☆

 〇  【耕し効率化】 ★★☆

 〇  【農作業効率化】★★☆


    カテゴリー:採掘

 ●  【採掘効率化】 ★★☆


    カテゴリー:槍

 ◎  【貫通力強化】 ★★☆


    カテゴリー:特殊

 ☆  【狼気ウルフオーラ



※〇は三幻槍の「クワ」装備時のみ。

※●は三幻槍の「ツルハシ」装備時のみ。

※◎は三幻槍の「ヤリ」装備時のみ。

※☆は【称号:狼王殺しウルフスレイヤー】装着時のみ。


更新履歴:

  ✓  星歴 4997年  5月 1日

  ✓  星歴 5002年  5月 1日

     星歴 5005年 11月15日

  ✓  星歴 5007年  5月 1日

  ✓  星歴 5012年  5月 1日

     星歴 5013年  8月15日 

 New! 星暦 5013年  8月31日 …

 …✓は定期更新履歴である。


※ ※ ※


【現在】

所持金:約2000G

達成ポイント:300pt


【所持品】

・冒険の書(赤)

・薬草×5

・回復薬×5

・魔力の実×5

・魔力薬×6

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