~Side Story~

【金色の裕者】「弱虫冒険譚-①-」

 ちょっとしたすれ違いから、クロムと距離が離れてしまった。

 本当ならば、あのまま「一緒に冒険をしよう」と誘うつもりだったのに、僕の馬鹿め。クロムの会場が散々だったと言うことは知っていたはずなのに、それを掘り返すようなことを言ってどうすんだよ。


 はぁ、どうしていつもこうなんだろう————


 僕は一人、ギルドを後にした。



★ ☆



 途方に暮れながら、行く当てもないままに飛び出したはいいけど、今からどうしたものか。


 僕がギルドの外で悩んでいると、


「おい兄ちゃん、新米冒険者ルーキーだな? ちょっと面貸しな」


 ガラの悪そうな男たち数人に囲まれ、そのまま連行された。




 ドガッ————


「————いったッ!!」


 路地裏の壁に叩きつけられる。

 抵抗しようと立ち上がろうとするが、すぐに胸ぐらをつかまれて顔面を殴られた。

 こんな時、あのリストバンドを武器に変形させればもしかしたら、と心では思うものの、街の中で人間を相手に怪我をさせたとなるとあと後めんどくさそうだし、相手が可哀想だと思ってしまい、心にストップがかかったせいで、反撃することができなかった。


「魔晶石————貰ったんだろ? そいつを俺らによこしてくんねえかな」


「ど、どうして……あんたらなんかに」


 バゴッ————ッ!


「グハッ!」


 蹴られて殴られて、口の中が血の味でいっぱいだ。

 こんなにされたのなら、石くらいやってもいいのに、と思うかもしれないが、「冒険者試験、合格おめでとうございます!」と言われて受け取った品、僕が冒険者に成った証の一つを、どこぞの馬の骨かもわからない奴なんかにやってたまるかと、心の底から思っていた。

 強さを証明するために必死こいて手に入れた地位「冒険者」。それを簡単に奪われてしまうような、そんな感覚に陥ってしまうため、彼らに石は渡せない。


 ——かといって、絶対的な抵抗もしたくはない。


 そのため僕は、彼らのサンドバッグになっていた。



 ————と、そんな真っ最中に、


「————なにしてるの?」


 表通りの方面から、こちらを見つめるその顔は、かつて僕と行動を共にしたとんがり耳の少女のものだった。



★ ★



 無表情で冷静な面持ちの彼女。何を考えているのかはわからないが、何かしらの意図があってここに足を踏み入れたのは間違いなさそうだ。


「……? だれだてめぇ」


「てめぇも新米冒険者ルーキーか?」


「んお? よく見ると可愛い顔してんじゃん。さてはエルフか?」


 ごろつきの連中の一部が口々にそう言うと、彼女の周りを囲むようにして移動していった。だが、彼女はそんな彼らを一切気にせず、


「アリアが助けを求めていたの。だから来たの」


 そう言うと、彼女はゆっくりと前進し始めた。

 ごろつきたちは、彼女のそんな態度にイラついたのか、彼女の腕を掴もうと手を伸ばした。しかし、


 いつの間にか空気中に散開していた水色の光たちが彼らの体を囲み、それらは一瞬にしてその場にいた生物の全てを凍てつかせた。僕と彼女を除いて————



 彼女は僕の目の前まで足を運び、僕に手を伸ばしながら「立てる?」と聞いてきた。

 ボコボコにされて顔がおたふくのようにパンパンに腫れた僕。鏡を見たらきっと笑ってしまうような、そんな顔をしているであろう僕に、彼女は笑わず手を差し伸べてくれた。


 僕はその手を取ってゆっくりと立ち上がり、「ありがとう」と一言こぼした。彼女はそれに対して無言を通し、そのまま僕の手を引いた。

 僕は前を見れなかった。

 彼女の姿が少しまぶしく感じられて、それ以上に視界が鈍ってしまうから。——いや、そんなおしゃれな理由なんかじゃない。前を向いたままだと、瞳に涙が溜まって、まっすぐ歩ける気がしなかったから————


 僕は、ボロボロと涙を流していた。


 彼女はそれに気づいたようで、


「なんで泣いているの? 痛いの?」


 と心配そうな顔をしていた。

 僕は小さく首を振って、繋いでいない方の腕で涙をぬぐった。


 そして、表の大通りに出たくらいで彼女が僕の手を放して、


「あとはもう大丈夫だよね」


 と、僕に告げた。

 その言葉に、なぜだか僕は胸が苦しくなった。体中の痛みや、蹴られたり殴られたりした顔の痛みよりも、もっと苦しい——心の痛み。

 ここで彼女と離れてしまうことが、僕にとっては心苦しくてしょうがなかった。


 なぜなのかはわからない。わからないけど、離れたくなかったんだ。だから、


「————あの」


「————?」


「————僕と旅をしてくれませんか?」


 僕は、先ほどまで握られていた手を、彼女の方に向けていた。




 こうして、僕の旅路に新たな仲間が加わることとなった。

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