第28話28

「でも、俺を襲うかもしれないって…それって、俺の事、心配してくれてるんだよね?」


御崎のネームプレートを見ていたのをバレいないようにしていた恒輝に、明人が微笑んで言った。


「お前…本当にいつもポジティブ野郎だよな…」


恒輝は、呆れたように感心した。


(底辺アルファの俺と違い、完璧なハイオメガ様は呑気だよな…)


と思いながら…


「お前、マジ悩みとか無いだろ?」


「いや…俺だって、悩みはあるよ…」


そんな事を微塵も感じさせず、明人が笑った。


「お前、嘘くせーんだよ!」


「嘘じゃないよ。それに…それに、俺…軽くなんかないよ…自分でも、一途だと思うよ」


明人が、恒輝の目をじっと見て言った。


相変わらず明人の色気がただ漏れで、恒輝はたじろぎそうになるが…


だが…それなら…


(あの古谷は何んなんだよ?…それこそ嘘くせー!)


(俺は、コロコロ付き合う奴変えるオメガはゴメンなんだよ!俺は、俺の事しかゼッテー目に入らねぇオメガしかいらねぇ…)


恒輝は、そう喉元まで声が出かかったが…


(ん?!ちょっと待て!今、俺…オメガと付き合う前提で言ったか?)


あんなにオメガ嫌いで、付き合う想像すら嫌で虫酸が走っていたのに、一体どうなっているのか?


恒輝は自分で自分の変調に困惑した。


そうこうしていると、向こうから女子達がこちらへ来る声がした。


「お前が一途って?冗談!」


恒輝はそう言い、明人の手を急ぎ離し、二人の話しも途中で終わった。


恒輝は、校門の近くに来ていた迎えの車に乗り込んだ明人の笑顔がどこか寂し気に見えたが、そのまま見送った。


その後、恒輝は帰宅すると思いきや再び校舎へ戻って、上履きに履き変えた。


そして、たった一人しか部員がいない美術部の教室に向かった。


遠くで、ブラバンや野球部の練習する音や声がする中…


恒輝は開いていた扉から、その中をチラリと覗く。


恒輝の予測通り、御崎が一人で椅子に座り、立てたキャンパスに向かい絵を描いていた。


御崎は絵の邪魔なのか、いつもボサボサの髪を後ろに束ね、それだけでもいつもと違うキレイな雰囲気だった。


「御崎…」


恒輝がそっと声をかけると、御崎は、メガネの下の瞳を丸くして驚いた。


「え?えっ?何?どうしてここに?」


「御崎…ちょっとだけ、今、話しいいか?」


「あっ…いいけど…えっ?何?」


恒輝は、断られるのは充分分かっていたが、ダメ元で頼む事にした。


御崎なら頭もいいし、恒輝ともよく喋るし、何より…


二人きりになっても、恒輝が突然アルファに覚醒しても、絶対襲わないと確信していたから。


「御崎!頼む!俺に勉強教えてくれ!俺の家庭教師してくれ!一緒に勉強してくれ!勿論、金は払う!」


突然の事で御崎はかなり戸惑って、暫く唖然としていたが…


「えっ?勉強?でも勉強なら…西島君には彩峰君がいるじゃん…きっと彩峰君の方が頭いいよ…」


「御崎…訳があって彩峰には内緒で…お前としたいんだ…頼む!させてくれ!させてくれ!」


恒輝が、真剣に強く御崎を見詰めた。


そしてその恒輝の視線に、何故か御崎は突然体がビクっとなり、強く強く固まった。


暫く…なんとも言えない時間が流れた。


そして…


(やっぱ…無理か…無理だよな…)


恒輝が諦めかけた時…


固まっていた右手から絵筆が落ち、それが床に落ちる前に取ろうと、御崎の体がぐらつき、椅子から落ちかける。


「あぶね!」


そう言いさっと恒輝がしゃがみ、下から御崎の体を抱き止めた。


「あっ、ごめん…ありがとう…」


御崎は、メガネが顔でズレたので

外すと、フイっと恒輝から視線を外しボソっと呟いた。


すると…


やはり恒輝が以前から思っていた通り…


メガネを外した御崎は、今の髪型も手伝ってめちゃめちゃのキレイ系イケメンで…


やがてニッコリ笑って恒輝に言った。


「いいよ!でも、お金は要らないし、ただ…勉強だけじゃ無くて、俺と二人きりで一緒に遊んでくれるなら、家庭教師してもいいよ…」


「あっ!えっ?…そんな事でいいのか?」


恒輝はそう聞きながら…


御崎が、まるでオメガのように本当にキレイで、どうしてベータなんだろう?…


実は理由があって隠してるだけで、本当はオメガなんじゃないか?とふと疑問に思った。




















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