第16話16
明人は、佐々木の最後の態度が気になって仕方なかった。
しかし、そのまま柔道の授業が始まる。
生徒達は、道場の両サイドに男女に分かれ、畳の上に2列横並びして正座して教師が来るのを待つ。
明人は、制服のまま柔道着の恒輝の横をさり気なくキープした。
すぐに、先程明人に声をかけた教師はやって来て皆の前に立つ。
しかし、その後ろに、何故か柔道着を着た佐々木が付いて来ていた。
明人は、何か嫌な予感が的中したのを感じ眉間を寄せる。
そして、恒輝も、体育教師以外がこの授業に出てくるのが珍しいなと違和感を感じた。
すでに女子達は、佐々木のりりしい道着姿を一目見て、見惚れてぽや~んとしている。
「この佐々木先生は、段位6段を持っておられる。今日は特別に、皆の稽古を見て頂くぞ」
体育教師がそう言うと、その後ろの佐々木は一歩前へ出た。
「ビシビシいくからな!」
女子達からは、「はい!」と明るい大きな声が上がったが…
男子達は皆無言で…
恒輝と明人以外の多くが下を向いた。
(何か…するつもりか…大河?!)
明人が、佐々木を見上げると、一瞬…
佐々木は、明人を見て微笑んだ。
その様子を恒輝は見ると、心の中でチッと舌打ちした。
だが…
(別に、彩峰と佐々木がどうだろうと、俺には関係ねぇだろ!)
自分が無意識にした舌打ちに驚きながら、常輝は1人心の中でごちた。
授業が始まる。
いつものように、軽い準備体操をして、今日の練習技の重要点を説明した動画を、備え付けのモニターで見た。
今日の練習技は、大外刈り。
そして、これもいつもの通り、恒輝は岡本とペアを組んで、2人共に本気を出さず適当に適当にやり過ごそうとする。
明人の方は一人、道場の端で正座して、その恒輝の姿だけを見詰めて追いかける
。
(俺を見すぎだっつーの!)
明人の所為で、恒輝の集中力が続かない
。
恒輝は、ケンカは得意だが、作法やルールを考えながらの柔道は苦手だった。
恒輝は、常に考えるより体が先に動く。
ケンカも思考より、ひたすら直感。
そして、考えた途端に体が動かなくなる
。
だが、それにも増して…
得意の頭突きや激しい蹴り、殴る拳を封じられてしまうと身動きが取れなくなってしまう。
しかも今日は、明人の視線が気になってしまい、恒輝は増々授業に身が入らないでいる。
明人の視線が、まるで恒輝の体に絡まってくるようにすら感じる。
しかし、授業も終盤。
佐々木が突然、さっきと同じように並んで座る生徒達に口を開いた。
余裕の満面の笑みで。
「最後に今日は特別、この俺と一緒に乱取りをやりたい奴はいるか?但し、男子オンリーだがな…」
又、男子達はシーンとなり、恒輝と明人以外、又畳を見る。
すると、佐々木は、前列一番右端に居た男子生徒から順番に聞いていく。
「お前は、どうだ?」
だが、数人誰も首を横に振った。
そして、すぐに、佐々木が恒輝の前へ来た。
佐々木は、最初から読んでいた。
恒輝の前へ行くまで、生徒は誰一人としてYESとは言わないだろうと。
その読み通りになる。
「西島!どうだ?俺と闘ってみないか?
」
恒輝は、落ち付いて無表情のまま、ゆっくりと佐々木を見上げた。
そして、それに逆に焦ったのは、明人だった。
(そう言う事か!大河!お前!)
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