今日も彼女は嬉しそうに僕に話しかける。


「ねえねえ。○○君、この本お勧めだよ」

 とある日の放課後、図書委員の仕事で二人残って本の整理を行っていた時に彼女は僕にそう言って笑いかけて来た。

 それは面白い本を同士に勧める物であり、別段特別な何かがあるわけではない。


 ただ、放課後静かな図書室に二人っきりという状況。

 更には司書の先生も用事があるといっていない。

 図書室の鍵は僕が持っている。図書室のドアは閉館時間ということで閉めてある。

 この完璧な状況でその笑顔はよくないと分かっていても邪な感情を抱いてしまう威力があった。


「あ、ありがとう。読んでみるね」

 何とか理性で自分を抑えつつ、本を受け取る。


 受け取った本は最近なんちゃら賞を取って話題になった作品だった。

 凄く売れているなと思っていたので、少し興味はあったが、ライトノベル優先の俺は読むことはないだろうとなと思っていた本だった。


「分かった。今日の夜にでも家で読んでみるよ。多分明日には返せると思うよ」


「うん。超お勧めだから読んでみて。あんまり詳しいことを言うとネタバレになるから言えないけど○○君も好きなタイプの小説だと思うよ」


「それは楽しみだな」


「うん。楽しみにしててね。あ、それでねその本を読む上で絶対に先に結末とあらすじは読まないで」


「結末は分かるけどあらすじも?」


「そうなの。あらすじもなの。その本のあらすじね中盤の方にある謎の説明が少し混ざっちゃってるから、読んでると100%この本の魅力を楽しめなくなるの」


「分かった。それなら読まないようにするよ」


「うん。そうしてね。あ、後ね後ね、登場人物の名前と相関関係に気を付けながら読んで欲しいの」


「分かった、名前と相関関係ね」


「うん。それと後ね後ね後ね、よく細部までしっかりと読みながら伏線とかを気を付けながら読んで欲しいの。私はこの本は自分で考察しながら読み進めたけど、それが凄く楽しめたんだ。だからその読み方もお勧めだよ。でもねでもね、普通に読んでも面白いよ」


「分かった、じゃあ僕はせっかくだし考察を勧めながら読もうかな」


「うん。じゃあ明日感想を楽しみに待ってるね。フフフ」

 笑う彼女は凄く可愛らしかった。

 僕の前だけこうして笑ってくれる。

 ああ、もう本当になんて愛おしいのだろうか。


「ああ、楽しみに待っててくれ」


「フフフ。そうさせて貰うね」

 そうして暫くたわいのない本の話をしながら、作業をしていたらっという間に今日の分の仕事は終わっていた。


「じゃあ。私はバスの時間が近いし帰るね」


「分かった。じゃあ俺は鍵を返したら帰るわ」


「フフフ。じゃあまた明日」


「ああ。明日」


「さようなら。今日も楽しかったよ。フフフ。バイバイ」

 俺に何処か小悪魔めいた可愛らしい笑顔を向けてそう言うと。彼女はその小さな体躯で鞄を背負うと手を振りながら図書室から出た。


 僕は手を振って返しながら、その可愛らしい後ろ姿が見えなくなるまで眺めていた。


「さて、鍵を返して。帰りますか」

 その後、俺はしっかりと図書室の電気を消して戸締りをしてカーテンを閉めて職員室に鍵を返して玄関で靴を履き替える。


「あ、○○君、まだいた」

 ダッダッダと音を立てて彼女が玄関の所まで走って来た。


「あれ?先に帰るって言ってなかったけ?」


「あ~、実は教室に忘れ物しちゃって、一回戻ってその後ちょっとお手洗いに行ってたの」


「あ。そうだんだ」


「それでねそれでね。良かったらバス停まで一緒に帰らない?確か住んでる場所の方角的に乗るバス一緒じゃない?」

 突然だが僕は自転車通学者だ。

 もちろん彼女はそのことを知っている。ただ今日は朝にかなり雨が降ったので自転車で来ていないと思ったのだろう。

 自転車ガチ勢の僕はウインドブレーカーを着て自転車を漕いでいる。10キロの道のりを漕いでい来ている。

 雨によってガラガラの駐輪場に俺のママチャリは寂しそうに鎮座している。


 その上で僕は言った。


「はい喜んで」


 と。


 かくして僕は片想い中の彼女と一緒に帰るという、まるでライトノベルみたいな出来事を経験することとなった。

 心臓はドキドキのバクバクだ。


 ――――――――――――


 作者の通学路までの距離約10キロ。

 もちろん自転車通学。

 だいたい片道30分程かかる。おかげというかせいというか、足の筋肉がバキバキになった。wwwwwww。


 ――――――――――――


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