黒霧の少女11


考える事が、やる事もか、山積みだな。フォールスが何故居たのか、て言うか白の代行者って何だ?俺をそこに引き込むのが目的なのか?俺とくうが一緒じゃなきゃ行けない理由はなんだ?


「おやおやぁ?お早いお帰りで」


まるで俺がドアを開けることを知っていたかのように燈火が玄関で正座を崩した座り方をして手をヒラヒラさせる。


何だかさっきまでの考え方がくだらなく思えてくる。


「顔合わせだけだからな。ま、やる事は増えたが」


「ほうほう、聞かせたまえよー」


「作るのに時間はかかるけど確実な消滅の陣を使う」


「……ふぅん、道具、使わないのね」


パッと無表情になり、居間に消えていく。


たまにある。何を考えてるかわからんのはいつもどうりだが得体がしれないと感じる瞬間だった。


自室に戻る。やり掛けの陣は燈火さんに説明したおとり消滅の陣。


和紙に魔石から抽出した黒色の原液を杖の先端に浸し、古代文字を円形に書いていく。この時に魔力を込めながらじゃないと魔法は発動しない。文字そのものに魔力を宿すことで辛うじて陣を行使することが出来る。これが今の俺の限界だった。




大きな揺れに襲われる。かなり大きい。ドドドと言うかなり強い雨音が耳に響く。雹も混じってるかもしれない。


バンッ!と障子が開かれる。


「空っ、緊急事態や。例の黒霧が終末時計に干渉しよった!」


それは、まるで見たことの無い程焦りを滲ませた燈火の姿だった。




今日の内に戻ってくるとは思わなかった。辺りはもう陽の光を浴びていない。その暗さは表情の暗さに直結しているのかもしれない。皆一様に緊張している。


一同は木曽川の土手に来ていた。見上げれば左右に青々とした桜の木が聳え立つ。この桜の道はざっと1キロはありそうだ。


この土手には裏道がある。燈火の権限でしか入れないこの世の裏道。


今この場には空、くう、フォールス、トーマス、咲、燈火…と誰だろう?


この場所に似つかわしくない少女が居る。


俺とくうとフォールス以外は警戒している。


「緊急事態や、派閥や腹芸とかはよしておくれ。事態を説明する」


「はぁ、まさかこうも早く再会とはね、それはいいけど、そのお嬢ちゃんは?」


「ん?私か。ネク・ビエンテ。ワケあり少女って所ね。まあ、腕は経つから心配しなくていいよ」


「そんな心配はしてない。何故素性もしれないやつがいるんだ」


「それは、言えないね」


ニヤリと挑発的にトーマスに笑いかける。


トーマスは目に見えてイライラしているがそれどころじゃないと思ったのか、燈火に説明を求める。


「黒霧の少女や、それも、実態のない龍の姿をしとる」


どういう事だ?人間は魔法を使っても化けられるのは限られる。自分より弱い物。それだけだ。化けると心が引っ張られるから、化ける対象より自分が強くなくては、魔物に変わり果てることもある。


それを踏まえて、龍になるなんて、そういう魔法か、魔道具か、それとも龍より強いのか。どちらにしろ厄介この上ない相手というのが分かっただけだ。


「触れたら死、隠れたら黒霧の範囲攻撃で死、で、どうする?」


チラリと俺の方に視線を寄越す、燈火。


その視線で全員の視線が集まった。


「魔道具がある。従魔契約のね、でも……」


その先は言わなくても皆、察することが出来たようだ。


従魔契約、その名の通り契約を目的とした魔道具だが、相手の同意、又は、圧倒的魔力量で強制契約の2つが契約の条件になる。


今回の相手は実体があやふやな上に龍に化ける程の魔力持ち、意識がハッキリしてるのかも怪しい。


このことが推察できるから、皆難しい顔をする。


「……準備不足は否めないね、取り敢えずこの魔力放出を一旦抑える方向で行かないか?」


咲が、神器の杖を地面突き、提案する。


有無を言わせない覇気を纏い、皆を一瞥する。


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