第5話

公園に着き、どの桜を描こうかと園内を歩き回っていた時、一人の画家っぽい人を見つけ、どんな絵を書いているのか気になった俺はなるべく足音を立てないように近寄っていった。


絵を覗き込んだ時、思わず、

「素敵な絵ですね。」

と言葉が漏れてしまった。


その言葉に画家が驚き、俺の存在に初めて気付いたリアクションをした。

「驚かせるつもりは無かったんです。申し訳ない。」

俺は謝り、その場を立ち去ろうとしたところ、

「あなたも桜を描きに来たの?」

と、画家に声を掛けられた。


「あぁ、そうだよ。」

「手に持ってるスケッチブック見せてくれない?」

「いやだよ。」

「私の絵は勝手に覗き込んだくせに、自分のは見せないっていうのは卑怯なんじゃない?」

「わかったよ。」


画家の割に口が立つなぁと思いながら、俺はスケッチブックを手渡した。

何枚かページをめくっていた手が急に止まり、俺の方をジッと見つめてきた。


「なんだよ?」

俺は女性に見つめられる経験がほとんどなかったこともあり、急いで視線を逸らした。

「あなたもしかして、このアカウントの中の人?」

そう言うと、画家はSNSアカウントを表示したスマホを俺の目の前に差し出してきた。


そのスマホ画面には、確かに俺のアカウントが表示されていた。


「そうだけど、よく俺のアカウント知ってるね。」

俺は自分のSNSを見てくれている人に初めて会った喜びでテンションが少し上がっていた。


「良く知ってるねって。あなた、フォロワー何人いるか知らないの?自分のアカウントなのに?」

画家は、不思議そうに俺をまた見つめてきた。


「SNSは投稿する時にしか開かないから。フォロワーとかっていうのも良く分からないし。」


「本当に?2000万人以上にフォローされている人にもなると、全然気にならなくもんなのか。住んでる世界が全く違うって感じ。」


「俺が、2000万人以上にフォローされている?それってつまり、俺の作品のファンが2000万人以上もいるってこと?」


「全員がファンかどうかは分からないけど、2000万人の人があなたに注目しているという意味ではあるかな。」


「そんな大勢の人がねー。嬉しいなぁ。君ももしかして、そのフォロワーってものの一人なの?」


「そうだよ。特にあなたの絵が凄い好きだし、目標にしているんだ。どうしたら、こんな風に人の心を鷲掴みにして離さない絵が描けるようになるんだろうって勉強したくて。」


「そっか。でも、さっき覗き込ませてもらった絵はとても綺麗だったし、今でも目を閉じれば、君の絵が頭の中に浮かぶほど素敵だったよ。」

俺は思ったことを素直に伝えたつもりだったが、突然画家は大粒の涙を流し始めた。

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