第3話

ゆきとの話は他愛のないような世間話のような会話が多かった。だが次第にゆき自身のことを私は知りたくなっていった。


「どうしてゆきは入院してるの?」

「私はなんかの病気なんだけど、医者が言うには不治の病なんだって。もう死ぬんだなって分かった時全然驚かなかったのは知ってたから」

「両親は?」

「どっちも病で倒れて死んだの。私の家系は病に弱い人が多いみたいだね」


最初から死ぬと分かっているのに狂わないでいられてゆきはとても強いなと思った。人間は先が無いと分かっていると自暴自棄に陥ると私はずっと思っていた。


「……正直一人で死ぬのだけは怖かった。誰も覚えてくれないと思ってたから」

「そうなんだ……」

「ましろは、私が死んでも私のことを覚えてくれる?」

「良いよ。ずっとゆきのことを忘れないよ」


私を見てからゆきはもう一日は生きている。正直に言って私はとても驚いた。今まで私を見た人間はどんなに長くても一時間で死んでいったからだ。

その間ずっと私はゆきとお話し相手になっているが彼女と話をしている時間は心地良い。

今まで私と話をする人はほとんどいなかった。居たとしてもお母様ぐらいだった。

徐々に私の中にゆきに死んで欲しくないという思いが芽生えてくる。彼女が死んだらまた私は孤独に戻ってしまう。前は気にもしなかったがこの心地良さを知った今ではこれを失うのがとても怖い。

彼女の病が何なのかは私にも良く分からないがこうして会話が出来るだけすぐに死ぬような病気では無いのではないかと思うこともあったが今までの経験則がそれを否定してくる。


「ゆき、死なないよね?」

「ましろは、死神らしくないことを聞くんだね」


私が思わず口から発してしまった願望に近い疑問をゆきは一瞬だけ目を見開いたがその後花が咲くような笑顔で笑いながら答えた。確かに今の言葉は死神らしくないだろうが今の私はゆきに死んで欲しくないという想いの方が強い。

言葉にして初めて分かったがもっとこの時間が続いて欲しいと私は思っていたのだ。


「私は、長く生きているのかな?」

「……長いよ。私を見てこんなに長く生きたのはゆきが初めてだよ」


人としては確かに短いであろうが死神を見た人間として見るのであればゆきは最も長く生きているだろう。このことは確信を持って断言できた。


「ふふふ、ありがとう」


ゆきは私の回答に対して嬉しそうに微笑んだ。

それから少しして……ゆきの症状は急変した。

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