第26話、転機1

◆◇◆5月24日 体育祭 当日

 午前の部が終わり、各々が校庭でシートを広げて楽しく話をしている中。

 女子生徒1、男子生徒1、男の娘生徒1、という余りにも他とは毛色の違うグループがいた。

「そういえば君軸、銃刀法違反って知ってるか?」

「なんだそれ? 新手のスタ○ド使いか?」

「え? この常識知らず、本当に社長で合ってる?」

 おにぎりをモグモグ食べる。

「おいおい、俺は父親(笑)が社長やってた時の全盛期から二倍程度には事業拡大させてんだぜ?」

「天は二物を与えずとは言うけれどコイツの場合一つ失ってんだよな……」

「才能手にする代わりに倫理失うとか致命的すぎる」

 その正体は雲雀、君軸、拳墜の三名だった。彼らが他のようなグループとは少しだけ違かった。他のグループは基本、生徒本人とその他の家族。または顔見知りの生徒同士の親を交えたグループで占められている。

「拳墜、鮭とってくれないか」

「中身知らないから勝手にとるわよ」

「その辺昆布だぞ、知らんけど」

 それに反して彼らはどうだろうか? 生徒三名で集まり、周囲には保護者らしき大人が一人もいない。

 その理由は彼ら三人にある共通点があったからである。

「そういや立花は親いない歴1年目だけど感想とかある?ww」

「この前親の死亡届を出したばかりの私に聞くとは良い度胸ですね~少しは傷心の可能性を考慮しろ」「ならせめて傷心のフリぐらいしろ」

 そう、彼らは三人とも親がいないのだ(君軸は自分からウキウキ殺しに行った)

「ゆーて1ヶ月も前だろ? そろそろ鼻穿りながら草とか呟いてないとおかしいと思う」

「おかしいのは君軸の頭はだと思う」

 雲雀はおにぎりを受け取ると、一口パクリ、とハムハムする。鮭昆布だった。

「つか常識どうなってるのよ本当に……」

 呆れながら呟き、拳墜は三人の共同作業(君軸:材料提供 拳墜:家電提供 雲雀:料理人)で作ったおにぎりを食べる。

「なんだ? 親は殺しても犯罪ならないんだぞ? 知らんのか?」

「知ってるわよそんぐらい!!」

「と、いうか拳墜、親いなくなって生き生きしてないか?」「ああ、それは俺も思った」

 雲雀は顔面に付いたご飯粒を拭き、茶を渡す。

「拳墜、なんか心当たりとかはない?」

「そうね、ちょっと思い出してみるわ……」

 そして拳墜は数秒ほど考えてから、顔を逸らして話し始める。心なしかヒュルルル、と風が吹いた気がした。

「元から家に一人でいることが多かったし、休日はひたすら家にいる親に気を遣う感じで、友達作りも絵柄が興味あった本も見てみたいと思ったアニメも親に制限されて……うん、いなくなって初めて迷惑さを実感してるからかな」

 顔をメッチャ気まずそうに逸らす。

「……………………うん、そっか」

「普通こういうの、いなくなって初めて大切さが実感するとかだろ、なんで迷惑さ実感してんだよ、いや……引くわ」「マジの反応してんじゃないわよ!!」

 君軸は大爆笑して、それを冷めた眼で見る二人と周囲の人たち。そして思い出したように君軸が話題を口にする。

「結局、拳墜の親殺したのって誰なんだろうな」

「さあ? でもなんか、誰がやったのか薄々分かっちゃったからどうでもいいかな……もう……」

「え? それは言えというフリですか?」「違うわよ!!」

「――――おー、お前ら。元気そーだな」

 その時、雲雀の後ろに影が見え、おにぎりを一個取られた。

「あ、先生」

「実行委員の方はもういいんですか?」

 冬空花子。体育担当の教員でもある彼女は当然のように体育祭では忙しい身であった。

「ま、とりあえずは大丈夫ってとこだなー。なーお前ら、誰かスマホにニュースアプリ入ってるいない?」

「ニュースアプリ、なら俺のスマホにありまっせ」

 君軸はポケットからスマホを取り出す。パスワードは雲雀の誕生日だった。

「なら君軸、ニュースアプリ、一回開いてみ?」「うぃー」

 君軸がニュースアプリを開き、それを両肩から雲雀と拳墜が覗き見る。

「く、雲雀のかほり!? ……離れろ、俺のチンコが火を噴くぜ」

「噴くのは火じゃなくて腐ったザ○メンでしょうが、あんたの場合」

「いや、立花じゃたたん」「なんでよ!!」

 ニュースアプリのトップには美味しいラーメン情報や、芸能人のニュースが並んでいた。別に珍しくもない普通のニュースばかりだった。

 だが、次の瞬間、何故花子がニュースアプリを開けと言ったのかを全員は一斉に理解することとなる。

「速、報……?」

「誤認逮捕……ってこれ!?」

 呆然と文字のみを呟く雲雀。拳墜は雲雀の顔を見、花子は何処かここではない場所を見ていた。

「へー、真犯人が分かったのかww――――雲雀の父親の事件」

 そして、そんな二人を置いていくかのように君軸が端的にその真実を呟く。

 雲雀の頬に伝う、一筋の汗を残して、初夏が去っていく。

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