第18話、怪盗3

「…………」「…………」

 キィィィィ(扉を閉める)

 ガチャっ、フェアリーは扉を開ける。

「あっ、ちょ、逃げんな怪盗!!」

「アホか! 逃げるわ!!」

「お前を捕まえたらケーキ奢ってもらんだよ分かれや阿呆が!!」

「分かってたまるか!」

 怪盗ジークはフェアリーを背に全力疾走していた。まるで風の如きステップは誰も捉えることが出来ない。

「!? 怪t」

「邪魔ッ!」

 視界に入った警察へ飛び蹴りを行う――――フェアリーが。

「えええええええええええ!?!?」

「おらァ! 人肉ミサイル貫けェ!!」

「ちょっ!? ぎゃあああああああああああ!!」

 フェアリーは警察の身体をミサイルみたいに吹っ飛ばした。そのまま怪盗ジークの腰へ激突し諸共吹っ飛ぶ。そして怪盗ジークはビルの窓をぶち破って空の旅へ!!

「ははは! お前はやっぱ異常だぜ――――最ッ高だな!! 雲雀・・!!」

 怪盗は夜空の下、お月様の元に秘宝・・をバラまいた。

「だが! 今夜は俺の勝ち!! あばよ親友、また明日ァ!」

「逃がすと、思ってんのかァ!! お前捕まえたらマリンちゃんからケーキもらえんだよさっさと捕まれッ!!」「お前友情なんだとおもってんだ!」

 空に舞う白い書類。それはまるで怪盗の成功を祝福する狼煙のようで――――その空気をぶち壊すかのようにフェアリーは怪盗の後を追いだした・・・・・・・

「へァ!? 今、落下中なんですけど!?!?」

「知ったことかあああああああああァ!!」

 ヒュンッ! 垂直落下!! 最大加速する黒妖精は流星と化す、あと一秒もしないうちに地面に激突する――――刹那に。

「邪ァッ! 流星落としィ!!」

 ドゴォォォンッ!! 空中で身体を回転! 落下加速の超火力を踵落としに注ぎこむ!! その過剰すぎる暴力の化身は地面に巨大なクレーターを生み出した。

「……煙幕か」

「砂埃だよ!? 俺なんもやってないよ!?」

 フェアリーの踵落としで発生した自然の煙幕。そして何故か当たり前に着陸している怪盗と第二幕へ――――


「――で、その結果がこれ、と」

「……はい」

  一時間後、フェアリーはマリンの前で正座していた。二人の間にはテレビが置かれ、とある映像が流れていた。

『えええええ!? い、今!! 女の子がビルから飛び降りて地面にええええええええ!?!?!』『○○アナ、落ち着いて、落ち着いて状況のレポートを』

『いやいやなんですかアレ!? クレーター!? はあ!? 手刀で木が、木が切断されました?! 爪楊枝でアスファルトが、はああああああああ!?』

 それは一時間前のテレビ中継、その録画である。

「ごめんなさい……」

「……まあ、壊した分は治してくれたし。今回は私が呼び出したってのもあるから不問にします! さー、協力してくれたことだしケーキ買いにいこっか」

「え……? 許してくれるの……?」

 フェアリーはフルフルしながらマリンを見上げる。チワワのような瞳は恐ろしく庇護欲を掻き立てる。

「? なーに言ってんだべ、許すも何も、今回は私の責任だよー、無関係のはずの黒ちゃんを巻き込んだの私だモーン。けど、もし罪悪感があるなら何故この結果に陥ったのかの具体的なポイントを押さえて、次回からはそれを起こさないように何か対策を立てること!」

「……!」

 瞳がウルウルし始める。そして抱き着く。

「うん! マリンちゃん大好き!」

「おーよしよし、かわゆいの~」

 偽百合は楽園を奏でて往く。その裏でマリンは口元を歪めた。

「(さーて、フェアリーちゃんの力を表に出したことで注目も増えたろっ、しばらくは話題になる……どんな反応が出るかは分からんけど、良くても悪くてもうちにくる依頼も増えそうやな、ぐへへ)」

 脳裏で二十を超える高速演算を繰り返して、印象操作の裏工作についてひたすら思いを巡らせた。

「そいえばマリンちゃん、怪盗がバラまいた紙って結局何だったの?」

「ん? あー、汚職の証拠だよ。怪盗ジーク、いっつも警察では手が出せない相手の犯罪の証拠バラまくんよ。ぶっちゃけ警察が動いてるのはメンツ守るためだから警備の一部はやる気ないし近隣住民では逃がすのに協力的みたいよー。見てみぬふりとか、その程度のレベルみたいだけど」

 怪盗ジークがカリスマ的人気を持つことと未だに捕まらない理由を簡潔に話す。

 「ふーん、義賊さんだねー」と興味なさげに呟く彼女、元からそこまで興味が無かったのが輪にかけて薄れたのだろう。そしてその数秒後、ケーキ屋が視界に入り完全に忘れることとなる。

「どれでも好きなの一つねー」

「わーい!」

 二重人格、人格破綻者、異端、異能、人外。そんな印象ばかりを抱く彼女は、とても少女らしく愛らしかった。

「…………は。なんだよ。その顔。俺なんかに見せねえぐらい輝く顔しやがって……」

 路地の裏で腰を突く男が一人。少女の笑顔を想起する。

「義賊……義賊、か。底辺にしかいられない俺が、そんな御大層なものになれるわけ、ねえのになあ……」

 怪盗ジーク。彼は自嘲するように笑み。暗闇に消えた。

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