第8話、黒妖精1

◆◇◆4月6日 深夜

Q、好きな動物はなんですか?

A、猫です。


 私は猫が好きだ。大好きだ。

 お目目が可愛いし、撫でるだけで幸せな気持ちになる。

「……ふふ、ふふっ」

 昼の髪に襟足ウィッグを着けて、ノンスリーブの黒いドレスと大きめの灰色パーカーを纏う。

「おやすみなさい雲雀……夜はお姉ちゃんが借りるね……?」

 私はお気に入りの神の産物サイハイソックスを履いて、太ももにサバイバルナイフを仕込む。準備完了、首をまわして夜の街へいざ往かん。

 ああ、楽しい。愉しい。たのしい。世界はどうして、こんなにも輝いているのかな。

 ふと見上げれば黒猫さん。まあ素敵、今宵のパートナーさんはあなたかな?

「猫さんこんばんわ。素敵な首飾りね」

「みゃぁ~」

 スキップしながら夜のお散歩。気紛れに路地へ走って壁をそっと蹴り空中を舞う。空中で一回点したら興が乗っちゃう、いいかな? いいよね? やりたいもの。

「♪~」

 私は空中でナイフを抜いて猫さんを八等分にした。血飛沫を上げる猫さん、死んだことにも気付けない猫さん、私の今夜のオカズ。

 私は猫さんのブロック肉をコンビニで買えるビニール袋に入れる――――ああ。

「ぁ、ぁぁっ♡ かわぃぃ……かわぃいよぉ……っ♡」

 ビニール袋を持ち上げて底の部分に口をつける。

「ちゅぱ……ちゅぱちゅっんぁっ……はぁ……♡」

 ちゅーちゅー赤ん坊みたいに吸い上げる。ああ、幸せ、幸せ幸せ幸せ幸せ幸せすぎて……♡

「ん……♡……はぁっ、んむ、んっ……ちゅぱ、ちゅっ……♡ しゅき、しゅき……♡」

 ――――ぁっ♡

 ――数分後――

「ふぅ……これでいいかな」

 私は猫さん袋を土に埋めた。お墓を創るなんて私偉い、偉すぎる。

「あっ、お仕事の時間だっ」

 カジュアルかつシンプルなデザインで気に入った時計を見て私は夜の街、その屋根・・へ飛び出した。

◆◇◆

 彼、否、今は彼女は謳う。清らかな声で、擦り切れるほど小さな声で、けれどもそれを巧みに奏でる唄は誰もを夢中にさせる綺麗な魔性を有していた。

「――――~ ――――~♪」

 秋津雲雀。彼にはいくつかの秘密が存在する。例えばそれは父親が犯罪者であること。共感覚という特殊な第六感を有していること。

「――――♪ ――~ ――♪」

 そして――

「死は屍と 人殺し~ 首切り 斬殺 焼殺 刺殺っ♪」

 ――二重人格であること。

 街の路地裏、その中を彼女は奥へ奥へと進む。ステップ、スキップ、宙返り。彼女は歩は舞いとなり、月の女神を思わせる。

 だが、それは〝彼女〟の歌を聞いていなければの話である。

「飛び降り 水責め 電気椅子」

 その愛らしい唇から囀られるのは酷く歪な死の歴史。

「ら~ らら~♪」

 綺麗なのにキモチワルイ、悍ましいのに清らかで。歪で壊れた精神で歩き続けた末路である。

 路地裏にあるバーの廃墟、バブル崩壊と同時に運営破綻をしたバーの成れの果て。彼女はその中の一つに入る。

「♪~♪♪~~」

 錆びたエレベータに乗って光の付いていないB2のボタンを押す。そして扉が開くと同時に彼女は笑顔で声を掛けた。

「こんばんはっ、おじさん。今日は何か仕事ない? んぇ?」

 おじさんが頭から血を流して銃を持った人が三人。その一人が銃を向けてきた。

「わりぃな嬢ちゃん、死んでくれや。うわ、可愛っ」

 発砲。銃の人はニヤニヤと笑う。だけど二秒後にはその瞳を面白いぐらいに白黒させていた。

「は……? すき」

「もーお店でバンバンやっちゃメっ、でしょー」

 彼女は爪楊枝で銃弾を貫いて・・・・・・・・・・止めていた・・。常識的に考えてオカシイ、出来の悪いB級映画でも見ているのだろうかと錯覚させる現象が起きていた。

「はは……黒妖精フェアリー、緊急依頼だ。コイツら行動不能にしろ、礼金は弾む」

――――物理法則に叛逆している。爪楊枝を指で弾き人の首を貫通する、サバイバルナイフで出来た切断面が燃やしたように焦げている。異常だ、異常すぎる。

 人の業を越えている、森羅万象に対する叛逆。鼠が虎を殴り殺す、葦がライオンを絞め殺し、ライターが滝を蒸発させる。

 理不尽、不条理、反逆者。そんな単語が浮かび上がるほどの一方的に蹂躙していく。そして……。

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