第29話 お祭りどころじゃなくなりました②


「これは拙いな」


 街を見渡せる建物の屋上からリカルドは今の街の状況を見ていた。


 モンスターが彼方此方から現れ暴れている、そのモンスター達を冒険者達が協力して倒している所もあれば、まだ一般人の避難を終えておらず一般人を守りながら戦っている所もある。

 今の所、戦っている冒険者達に疲労は見えないが時間が経てば疲労で動きが鈍くなる者が出始めるだろうとリカルドは考えた。


「私も頑張らないといけないね。それと折角の祭りを台無しにするのは許せない。

 妖精達よ、この騒ぎの元凶を探してきて」


 リカルドは妖精の杖を振るった。


――――――


※ジェシカ視点


「ジェシカ!!!!!!」


 フロルの悲痛な声が聞こえる。

 そんな悲しまないで、私は一時でも、幼い頃から一緒に居た貴方を冷遇したんだから。

 その幼馴染を庇って死ぬ、本来はむごたらしい最期を迎える方がお似合いだと思うけどこれで良いのかもしれない。


 今、思えば、アレックス、彼奴のスキルに惹かれたのは頼もしかったからだ。

 幼い頃、村長の一族として厳しく育てられてきた私は周りを頼るという事はしなかった、そういう風に育てられたという訳ではないけど、自然と村長の娘という立場であった私は何かと頼られて生きてきた。

 それだから、アレックスのスキルに、頼れる存在に強く惹かれた。

 そして、アレックス守護の力が居なくなるのを恐れた私はアレックスに対して何でもかんでも褒めちぎり、挙げ句にはアレックスと共にフロルを役立たずと罵って、フロルを冷遇した。


 馬鹿だ、本当に私は馬鹿だ。

 私みたいな奴は生きている資格はない、だから、アレックスの騒動の後、私は死のうとした。

 だけど、それは出来なかった。

 死に場所を求め、ようやく見つけた先でナイフを自分の心臓に向けた時。


「何してるんだ?」


 ギルド治安維持部隊のリーダーであるカレンさんに出会った。


 その後、私はいつの間にか彼女のカレンさんの下に、弟子になるという形でフロルの傍に居ることになった。

 最初はパーティーの事をなかったように振る舞うフロルにどう接して良いか解らなかず、今まで過ごしてきたけど、こんな事になるなら少しは話をしても良かったかもしれない。


 フワリと私の体が浮く。

 どうやら、モンスターは私を食べようとしているようだ。

 でも、これで良いのだ。馬鹿な私に生きる資格なんてないのだから。


「散れ」


 モンスターの口に放り込まれる直前、モンスターは何者かによって吹き飛ばされた。


――――――


※フロル視点


 アタシは何をしてるんだろう。

 ジェシカが死にかけているのに。

 食べられそうになっているのに。

 動けない。

 動いてよ、どうして動かないの?

 お願い、お願いだから、動いてよ!!


「散れ」


 ジェシカがモンスターの口に放り込まれる直前、大きい狼のような獣がモンスターに襲いかかった。

 襲いかかれ吹き飛ばされた拍子にジェシカは解放され、空中に飛ばされる。

 ヤバい!! あのままじゃ!!


「風の妖精よ、吹け」


 その言葉と共に風が吹くとジェシカはフワリと浮き、私の前に落ちてきた。

 良かった、けど油断は出来ない。血を止めないと!!


「ジェシカ、待ってて! 今、血を止めてあげる!!」


「そ・・・・・・んなこと、する、ひつようは・・・・・・」


「ジェシカが死ぬのはやだ!! まだ仲直りしてないのに!! このまま死に別れるのはやだ!!!!!!」


 そう叫ぶように言うとジェシカは驚いた顔をする。

 確かに、アタシはアレックスの影響でアタシを冷遇するようになったジェシカ達に憎むことはあった、悲しくなった、だけど、死んで欲しいと思った事はなかった。


「色々あったよ、だけど、このまま死に別れるのは違う!! いいから、大人しく治療を受けてもらうからね!!」


「・・・・・・ごめん、フロル、ごめんなさい」


 ジェシカの目から大粒の涙が零れる、ジェシカが泣く所なんて一度も見た事がなかったから少し驚く。

 でも、今はそれどころじゃない。

 先ずは止血だ。


――貴方はとっても良い子なのね。大丈夫、私達が助けてあげる♪


 アタシの脳内に可愛らしい声が響くと爽やかな花の香りが広がった。

 これは一体?


――私達、花の妖精の癒やしの力を貴方にあげる♪




「何とかなったようだね」


『わふっ!』


「クー、モンスターの討伐ありがとうね、お利口さん。

 回復能力を高める花の妖精達を呼んであげたら、早速、手伝っているようだね。これなら此処は安心だ」


 先程、モンスターを倒しジェシカを助けたリカルドは屋根の上からジェシカの治療を始めたフロルを眺める。

 元凶を探している妖精達からフロルが危ないと報告を受けて助けにやってきたのだ。


「ふふ、間に合って良かった。さて、引き続き元凶を探すか」


『わん!!』

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