2-7 イケオジ先輩の密かな楽しみ
「いったいアレはどういうことだ!?」
「アレ、とは? ちょっと俺には分かりかねますな、
会社に戻ってきたレイカはプレゼンテーションの報告書を作りに自分のデスクへと戻っていった。
一方で彼女に同行していた先輩の池尾は久瀬係長にミーティングルームへと呼び出され、彼の理不尽な怒りに
いつもの彼ならウンザリするような展開だが――今回はこの状況を少しだけ楽しんでいた。
「今まで全く使えなかったような女が、何故やったこともないプレゼンで上手くいく!? しかもあの気難しいドクターばかりが居る病院でだぞ!? 有り得ないだろうが!!」
「でも実際上手くいきましたからねぇ。案外、アイツが無能じゃなかっただけなのかもしれませんよ?」
自分が手伝ったことは一切触れずに、あくまでもレイカの実力だと言い張る池尾。
もちろん、自分にこの上司の怒りが向かってこないようにするためである。
しかし久瀬はそんな回答を期待していたのではない。
せっかく調子に乗った部下の鼻をへし折ったところで助け舟を出して、あわよくば彼女とイイ関係になろうという思惑があったのに。
「んなわけがあるか!! じゃあ何か? アイツは入社して数年も無能を演じていたっていうのか!? フンッ、馬鹿馬鹿しい!! だったらまだ誰かと中身が入れ替わったと言われた方が納得できるわ!」
「そんなことを俺に言われましてもねぇ~?」
そんなことは池尾が知ったことではない。
だがしかし……内心では久瀬係長の言うことも
あれは誰がどう見たって、オカシイ。
そんな人間がちょっとやる気を出して成功するのなら、この業界の人間はそんな苦労なんてしないのだ。久瀬の言う通り、誰かが成りすましているといった方がまだ現実的かもしれない。
なにしろあの女は大量にあった資料をたった数日で読み込み、適切に理解し、それをかみ砕いてから自分より知識のある者に説明するという、常人には不可能な行為を苦もなくやってのけたのだ。
新人がどれだけ綿密に準備をしたとしても大半がバカにされるか、ちょっとしたミスをボロクソに突かれた挙句に半べそかいて逃げ帰るのがオチだ。
今回みたいにほとんどのドクターから高評価をされるなんて、絶対に普通じゃない。
要領が良く頭の回る池尾ですら、新人の頃は徹底的に心を折られたのだ。
お陰でこんな面倒なオッサンになってしまったワケなのだが……
「おい! 聞いてるのか池尾!」
「はいはい、聞いておりますよ係長。……まぁ今回の件はアレでしたけど、なにか裏があるのかもしれませんし……俺がアイツの担当を引き続いて、何があったのかをちょっと
「本当か!? いや、そもそもお前だって信用がならんのだぞ。そんなことを言っておいて、本当はあの女の味方をする算段なんじゃないのか? はっ、もしかしてお前もアイツのカラダが目的か!?」
「(ちっ、無駄に疑り深いブタめ。俺を同類にすんじゃねぇよ……)かといって、係長の部下をつけてもアイツがボロを出すとは思えませんぜ?」
元から性格がひね曲がっているのか、人を信用できないほどの過去があるのかは知らないが、面倒の一言に尽きる男、久瀬原士。
やっぱりこの男の事は好きになれないな、と思いながらも自分の都合の良いように話を誘導していく。
「むむ……しかたない。おい、池尾! アイツが次に何かしようとしたら、すぐに俺に報告しろ! わかったな!?」
「へいへい。了解しましたよ~」
ふん、と鼻息荒く捨て台詞を吐くと、喫煙ルームの方へと消えていく係長。
「はぁ、まったく。いつまでも部下を駒扱いして遊んでっから、部長以上のクラスに
取り敢えず、今日の仕事はもう終わりだと言わんばかりのムードを出している池尾。
首元のネクタイを緩めながら、次は何をやらかしてくれるのか楽しみに思うのであった。
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